夏休みの終わりを告げるように、空は茜色を溶かしながら夜を迎えようとしていた。
「わぁぁ!美羽!見て見て、私の浴衣どう?!似合う?!」
「莉子、すっごく可愛いよ!その向日葵の柄、絶対似合うと思ってた!」
美羽も水色に白い花が舞う浴衣を着て、くるりと回った。
涼しい風が裾を揺らして、夏の匂いが胸の奥まで入り込む。
集合場所に行くと、黒薔薇メンバーが全員浴衣姿で待っていた。
ほんの一瞬、会場の周囲が静かになったような気がしたのは気のせいじゃない。
近くにいた女子高生が「え、あの人たちやばい…全員イケメンじゃん」とざわついている。
(わ、わぁ……椿くん……浴衣似合いすぎ……!!)
椿は黒地に渋い紺の帯。
髪は少し艶があって、いつもより色気が三割増し。
「美羽……浴衣似合ってる。」
「え!?……あ、ありがと……」
たったそれだけなのに、心臓が跳ねる。
悠真が屋台のマップを広げながら叫んだ。
「ねぇねぇ美羽ちゃん!せっかくだし、いっぱい屋台まわろうよ!!まずは焼きそばでしょ?!その次はリンゴ飴でしょ?!その次は――」
「悠真、ほどほどにしとけよ?」
珍しく止める椿。しかし止めているようで止めていない。
結局、美羽は悠真に腕を引かれ、あちこち連れ回された。
「ゆ、悠真くん!た、食べすぎだってば……!」
「今は美羽ちゃんとまわれるから問題ナッシング!!」
(いや、褒められてるのか何なのか……)
その横では、玲央が射的で次々に景品を落とし、
遼はくじ引きでなぜか大当たりを連発し、
碧は水しぶきを立てながら金魚すくいに本気を出していた。
「美羽さん!見てください、金魚100匹超えました!」
「す、すごいけどどうすんのそれ!?」
わいわいと騒ぎながら、夏祭りは最高潮へ。
やがて、人の流れが花火会場へ向かい始めた。
「美羽ちゃん、このへん近道だからついてきて!」と悠真。
美羽は慌ててついていったが――
数秒後、背中がふっと軽くなる。
気づけば、美羽ひとり。
人混みの波に押し流されていた。
「え……悠真くん?」
焦って周りを見渡し、必死にかき分けようとした瞬間――
ぱちん。
鼻緒が切れ、体勢を崩した美羽は勢いのまま誰かにぶつかった。
「あっ!ごめんなさ――」
顔をあげた瞬間、息が止まる。
「……え?もしかして、雨宮さん?」
そこにいたのは――
中学時代、ずっと片想いしていた初恋相手。
林くんだった。
「は、林くん!?なんでここに!?」
林くんは驚きながらも、相変わらず優しく笑った。
「ちょうど親戚の家に来ててさ。夏祭りに顔出してみたら……まさか、雨宮さんに会うなんてね。びっくりだよ。」
視線がふと美羽の足元に落ちる。
「あ!鼻緒、切れてるよ。ちょっと待って。」
近くの木製のベンチに美羽を座らせ、慣れた手つきで鼻緒を結い直してくれた。
指が触れるたび、じん、と懐かしい感情が胸に広がる。
「雨宮さん、久しぶりだね。すごく……綺麗になってて、最初気づかなかったよ。」
心臓が痛いほど鳴る。
あの頃と同じ、あどけない笑顔。
優しくて、まっすぐで――
変わっていない“初恋”。
「元気にしてた?あ……なんか気まずいよね、ごめん。」
「ぜんぜん。私も、こんなところで会うなんて思わなくてっ。」
林は少し俯き、照れたように言った。
「僕ね、あれから色々考えてたんだ……雨宮さんみたいな子を振るなんて、ほんと勿体ないことしたなって。今さらだけど、ちょっと後悔してた。」
「え……」
美羽の胸が小さく揺れる。
あの日聞けなかった言葉。
中学の終わりに終わった恋が、不意に息を吹き返したような錯覚。
林くんは、ゆっくり顔を上げて言う。
「あのさ…!もし時間空いてたら、一緒に回らない?少しだけ……話したいんだけど…」
「わぁぁ!美羽!見て見て、私の浴衣どう?!似合う?!」
「莉子、すっごく可愛いよ!その向日葵の柄、絶対似合うと思ってた!」
美羽も水色に白い花が舞う浴衣を着て、くるりと回った。
涼しい風が裾を揺らして、夏の匂いが胸の奥まで入り込む。
集合場所に行くと、黒薔薇メンバーが全員浴衣姿で待っていた。
ほんの一瞬、会場の周囲が静かになったような気がしたのは気のせいじゃない。
近くにいた女子高生が「え、あの人たちやばい…全員イケメンじゃん」とざわついている。
(わ、わぁ……椿くん……浴衣似合いすぎ……!!)
椿は黒地に渋い紺の帯。
髪は少し艶があって、いつもより色気が三割増し。
「美羽……浴衣似合ってる。」
「え!?……あ、ありがと……」
たったそれだけなのに、心臓が跳ねる。
悠真が屋台のマップを広げながら叫んだ。
「ねぇねぇ美羽ちゃん!せっかくだし、いっぱい屋台まわろうよ!!まずは焼きそばでしょ?!その次はリンゴ飴でしょ?!その次は――」
「悠真、ほどほどにしとけよ?」
珍しく止める椿。しかし止めているようで止めていない。
結局、美羽は悠真に腕を引かれ、あちこち連れ回された。
「ゆ、悠真くん!た、食べすぎだってば……!」
「今は美羽ちゃんとまわれるから問題ナッシング!!」
(いや、褒められてるのか何なのか……)
その横では、玲央が射的で次々に景品を落とし、
遼はくじ引きでなぜか大当たりを連発し、
碧は水しぶきを立てながら金魚すくいに本気を出していた。
「美羽さん!見てください、金魚100匹超えました!」
「す、すごいけどどうすんのそれ!?」
わいわいと騒ぎながら、夏祭りは最高潮へ。
やがて、人の流れが花火会場へ向かい始めた。
「美羽ちゃん、このへん近道だからついてきて!」と悠真。
美羽は慌ててついていったが――
数秒後、背中がふっと軽くなる。
気づけば、美羽ひとり。
人混みの波に押し流されていた。
「え……悠真くん?」
焦って周りを見渡し、必死にかき分けようとした瞬間――
ぱちん。
鼻緒が切れ、体勢を崩した美羽は勢いのまま誰かにぶつかった。
「あっ!ごめんなさ――」
顔をあげた瞬間、息が止まる。
「……え?もしかして、雨宮さん?」
そこにいたのは――
中学時代、ずっと片想いしていた初恋相手。
林くんだった。
「は、林くん!?なんでここに!?」
林くんは驚きながらも、相変わらず優しく笑った。
「ちょうど親戚の家に来ててさ。夏祭りに顔出してみたら……まさか、雨宮さんに会うなんてね。びっくりだよ。」
視線がふと美羽の足元に落ちる。
「あ!鼻緒、切れてるよ。ちょっと待って。」
近くの木製のベンチに美羽を座らせ、慣れた手つきで鼻緒を結い直してくれた。
指が触れるたび、じん、と懐かしい感情が胸に広がる。
「雨宮さん、久しぶりだね。すごく……綺麗になってて、最初気づかなかったよ。」
心臓が痛いほど鳴る。
あの頃と同じ、あどけない笑顔。
優しくて、まっすぐで――
変わっていない“初恋”。
「元気にしてた?あ……なんか気まずいよね、ごめん。」
「ぜんぜん。私も、こんなところで会うなんて思わなくてっ。」
林は少し俯き、照れたように言った。
「僕ね、あれから色々考えてたんだ……雨宮さんみたいな子を振るなんて、ほんと勿体ないことしたなって。今さらだけど、ちょっと後悔してた。」
「え……」
美羽の胸が小さく揺れる。
あの日聞けなかった言葉。
中学の終わりに終わった恋が、不意に息を吹き返したような錯覚。
林くんは、ゆっくり顔を上げて言う。
「あのさ…!もし時間空いてたら、一緒に回らない?少しだけ……話したいんだけど…」



