ロビーの白い床が、朝の光を反射してきらきらしていた。
到着した瞬間、その中にいる莉子が大きく手を振った。
「美羽ー!!椿くんも!!」
思わず美羽は走りかけて、
「ちょっと莉子!!こんなことなら、連絡してよ~!」
「ごめんごめん、私もついさっき知らされたの!お兄ちゃん、ほんと教秘密主義だから!」
莉子は舌を出しながら秋人の隣でぴょんぴょん跳ねている。
秋人は、淡い光をまとったオッドアイを向けてきて、
どこか旅立ちの人のような澄んだ笑顔を浮かべた。
「椿、それに美羽ちゃんも。来てくれたんだね。ありがとう。」
椿はそっぽを向いたまま、短く言う。
「…ったりめぇだろ。」
美羽はそんな椿の横顔に小さく苦笑する。
「なんか、素直じゃないね椿くん。」
(……ほんと、わかりやすく照れてる……)
すると秋人が、ゆっくりと美羽の前に来て、
言葉の温度をひとつ上げた。
「そういえば美羽ちゃん。あの返事、考えてくれた?」
「えっ」
莉子が何やら興味津々だ。
「お兄ちゃん?え?!なになに?!どういうこと?!美羽?!」
椿は一瞬で眉間に深いシワを刻む。
「秋人。冗談がすぎるぞ?」
秋人は肩をすくめて、ふふっと笑った。
「冗談?やだなぁ。椿、俺は――本気だけど?」
その瞬間、空気がピキッと音を立てたような気がした。
椿と秋人の間に薄い火花が散る。
「ちょ、ちょっと!ふたりとも!!」
美羽は慌てて両手をばたつかせる。
「と、とにかく秋人くん!!ごめんなさい!私はっ……!」
必死に口を開いたその瞬間――
秋人が吹き出した。
「はははっ……!」
美羽はぽかんと固まる。
「え……?」
「俺はね、ふたりのことが好きだよ。」
秋人は優しく笑う。その笑顔は、どこか寂しさを含んでいた。
椿が目を見開く。
「秋人……」
「あーあ、こんな美羽ちゃんの可愛い所、椿は一番最初に気づいたんだろうねぇ。はぁ…、ちょっと悔しいなぁ~… 」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに――
ふっと秋人の姿が近づき、
瞬きをした時にはもう、美羽の額にあたたかな感触が落ちていた。
「…へ?」
美羽は現実が理解できず固まる。
遅れて椿の声が爆発した。
「なっ!!秋人!!」
秋人はしてやったりといった顔で椿を見る。
「おでこだし挨拶みたいなもんだよ?
心が狭いなぁ~椿は。そんなじゃ美羽ちゃんに愛想つかされるよ?」
「誰がだ!!」
椿が怒鳴るが、秋人は余裕の笑みのままキャリーバッグを引き始めた。
「じゃ、俺行くよ。
――椿!」
ゆっくり振り返る。
オッドアイが、朝の光に震えている。
「美羽ちゃん悲しませたら……今度は俺が美羽ちゃんをもらうからね。」
「ちょ、ちょっと!?…秋人くんがそれ言う?」
美羽は顔を真っ赤にして叫ぶ。
秋人は軽く手を振り、ゲートの奥へ消えていった。
美羽はその場で固まるしかなかった。
(え、え、えぇぇぇ……!?)
隣では椿が息を吸い込んで、美羽に向き直る。
「……美羽。ちょっとこい。」
腕をぐいっと掴まれ、
「えっ、え?ちょ、椿くん?!?」
莉子は横で「ひゃーー!!」と奇声を上げている。
物陰に引かれたと思った瞬間――
美羽の額に、そっと椿の唇が触れた。
あまりにも唐突で、
秋人のそれとは違う、熱がこもった触れ方だった。
「え……!?」
椿は真っ赤な耳を見せながら、そっぽを向いた。
「ばーか。消毒だ!」
そう言い捨てて、先に歩いていく。
美羽はしばらく動けなかった。
胸が、痛いほどドクドクしている。
(な……なに今の……)
数秒遅れて、顔が沸騰するみたいに熱くなった。
「……っ!!」
空港の冷房が効いているはずなのに、
美羽の温度だけが上がっていく。
莉子が遠くから叫ぶ。
「きゃーーー!!二人とも最高すぎるんだけどーーー!!」
青く広がる空港の天井の下、
恋と嫉妬と別れと再会の余韻が、
ゆっくりと美羽の胸に沈んでいった。
到着した瞬間、その中にいる莉子が大きく手を振った。
「美羽ー!!椿くんも!!」
思わず美羽は走りかけて、
「ちょっと莉子!!こんなことなら、連絡してよ~!」
「ごめんごめん、私もついさっき知らされたの!お兄ちゃん、ほんと教秘密主義だから!」
莉子は舌を出しながら秋人の隣でぴょんぴょん跳ねている。
秋人は、淡い光をまとったオッドアイを向けてきて、
どこか旅立ちの人のような澄んだ笑顔を浮かべた。
「椿、それに美羽ちゃんも。来てくれたんだね。ありがとう。」
椿はそっぽを向いたまま、短く言う。
「…ったりめぇだろ。」
美羽はそんな椿の横顔に小さく苦笑する。
「なんか、素直じゃないね椿くん。」
(……ほんと、わかりやすく照れてる……)
すると秋人が、ゆっくりと美羽の前に来て、
言葉の温度をひとつ上げた。
「そういえば美羽ちゃん。あの返事、考えてくれた?」
「えっ」
莉子が何やら興味津々だ。
「お兄ちゃん?え?!なになに?!どういうこと?!美羽?!」
椿は一瞬で眉間に深いシワを刻む。
「秋人。冗談がすぎるぞ?」
秋人は肩をすくめて、ふふっと笑った。
「冗談?やだなぁ。椿、俺は――本気だけど?」
その瞬間、空気がピキッと音を立てたような気がした。
椿と秋人の間に薄い火花が散る。
「ちょ、ちょっと!ふたりとも!!」
美羽は慌てて両手をばたつかせる。
「と、とにかく秋人くん!!ごめんなさい!私はっ……!」
必死に口を開いたその瞬間――
秋人が吹き出した。
「はははっ……!」
美羽はぽかんと固まる。
「え……?」
「俺はね、ふたりのことが好きだよ。」
秋人は優しく笑う。その笑顔は、どこか寂しさを含んでいた。
椿が目を見開く。
「秋人……」
「あーあ、こんな美羽ちゃんの可愛い所、椿は一番最初に気づいたんだろうねぇ。はぁ…、ちょっと悔しいなぁ~… 」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに――
ふっと秋人の姿が近づき、
瞬きをした時にはもう、美羽の額にあたたかな感触が落ちていた。
「…へ?」
美羽は現実が理解できず固まる。
遅れて椿の声が爆発した。
「なっ!!秋人!!」
秋人はしてやったりといった顔で椿を見る。
「おでこだし挨拶みたいなもんだよ?
心が狭いなぁ~椿は。そんなじゃ美羽ちゃんに愛想つかされるよ?」
「誰がだ!!」
椿が怒鳴るが、秋人は余裕の笑みのままキャリーバッグを引き始めた。
「じゃ、俺行くよ。
――椿!」
ゆっくり振り返る。
オッドアイが、朝の光に震えている。
「美羽ちゃん悲しませたら……今度は俺が美羽ちゃんをもらうからね。」
「ちょ、ちょっと!?…秋人くんがそれ言う?」
美羽は顔を真っ赤にして叫ぶ。
秋人は軽く手を振り、ゲートの奥へ消えていった。
美羽はその場で固まるしかなかった。
(え、え、えぇぇぇ……!?)
隣では椿が息を吸い込んで、美羽に向き直る。
「……美羽。ちょっとこい。」
腕をぐいっと掴まれ、
「えっ、え?ちょ、椿くん?!?」
莉子は横で「ひゃーー!!」と奇声を上げている。
物陰に引かれたと思った瞬間――
美羽の額に、そっと椿の唇が触れた。
あまりにも唐突で、
秋人のそれとは違う、熱がこもった触れ方だった。
「え……!?」
椿は真っ赤な耳を見せながら、そっぽを向いた。
「ばーか。消毒だ!」
そう言い捨てて、先に歩いていく。
美羽はしばらく動けなかった。
胸が、痛いほどドクドクしている。
(な……なに今の……)
数秒遅れて、顔が沸騰するみたいに熱くなった。
「……っ!!」
空港の冷房が効いているはずなのに、
美羽の温度だけが上がっていく。
莉子が遠くから叫ぶ。
「きゃーーー!!二人とも最高すぎるんだけどーーー!!」
青く広がる空港の天井の下、
恋と嫉妬と別れと再会の余韻が、
ゆっくりと美羽の胸に沈んでいった。



