春の光が黒薔薇学園の中庭を白く照らし、
校舎のガラスが新学期の匂いを反射していた。
そんな中。
黒薔薇メンバー+美羽は、クラス替え発表の掲示板前へ歩いていた。
当然のように——
椿は美羽の手を握り、早歩きでぐいぐい引っぱっていく。
「ちょ、椿くん!?そんな急がなくても……!」
「混む前に見に行くぞ。」
「ひゃっ……手、強い……!」
周囲の視線がざわ、と騒ぎ始める。
「うわ生の北条椿!やっぱかっこよ……」
「見て、手繋いでる……え、噂の彼女?!」
「雨宮美羽じゃん!?マジであの子か!!」
「戦血姫って噂の……?」
「嘘だろ!?見た目ただの可愛い子じゃん!!」
「可愛い上に強いとか最強かよ……!」
男子たちまで騒ぎだし、
美羽の名前はあっという間に人混みの中心へ。
(ううっ……やっぱり噂広まってたんだ……
椿くんの彼女って、こんなに注目されるの!?無理、心臓もたないよっ……)
そんな美羽の戸惑いをよそに、椿は不機嫌そうに眉を寄せた。
ギロッ。
周囲に向けられた冷たい視線。
たちまち男子のひとりが「ひいっ!」と声を漏らした。
「……見すぎだ。殺されてぇのか。」
「こ、怖……!」
まるで嵐の目のように、
椿の半径2メートル以内から、人がきれいに消えた。
(え、ちょっと!!……椿くん……
もしかしなくても嫉妬……してる?)
そこへ悠真がにやにやしながら声をかけてくる。
「わぁ、珍しく嫉妬してるねぇ椿!
これはレアだよ?美羽ちゃん?」
「し、嫉妬って……違うし……!」
「違わねえ。」
椿が即答し、美羽の耳まで真っ赤に染まった。
「ひゃぁぁぁ……っ、言わないでよ!!」
そんな騒ぎの中 ——。
「美羽ーーっ!!」
明るい声が響き、
人混みをかき分けて莉子が飛び込んできた。
「莉子っ!!久しぶり!!春休みぶりだね!!」
手を取り合ってぴょんぴょん弾むふたり。
黒薔薇メンバーも振り返り、
遼が「相変わらず仲良しだね〜」と笑った。
「クラスね、私もう見てきたよっ!」
「え?莉子もう確認したの!?」
「ふっふっふ、朗報だよ美羽!
私たちまた同じクラスっ!!」
「本当に!?やったぁぁ!!」
飛び跳ねて喜ぶ美羽。
しかし次の瞬間——。
「……俺たちは違うぞ。」
椿がさらっと言い放ち、
美羽が固まった。
「えっ!?なんで!?まだわたし椿くんと同じクラスか確認してないのにっ……!」
「無理だ。俺ら黒薔薇は“特進Aクラス”固定だからな。」
「と、特進……?」
椿はため息をつきつつ、美羽の頭を小突いた。
「はぁ、そんなことも知らなかったのか。先が思いやられるな。」
「ひどいっ!!」
莉子も慌てて補足する。
「そうだよ美羽!私たちは普通クラスだから、
特進の椿くんたちと同じになるには……成績めっちゃ上げないと!!」
「え……ええぇぇ!?そんなハードル高いの!?」
「まぁな。」
悠真がすかさず割って入る。
「でもまぁ美羽ちゃん、僕も椿と同じクラスだから……
寂しいなら~僕に毎回ハグしてくれたら、椿を貸してあげるよ♡」
「貸さねぇよ。」
「うわ、即答!愛が深い!」
遼は肩を揺らして笑う。
「遠距離恋愛って燃えるんだってさ〜。よかったね美羽ちゃん?」
「全然よくない!!」
碧は微笑んで、
「では美羽さん、またお昼休みに勝負しましょうね。」
「勝負しない!!わたしもう強くなりたくない!!これから女子力鍛えるんだから!!」
最後に玲央が眼鏡を押し上げて言った。
「ちなみに雨宮美羽のテスト成績のデータから分析すると、
特進クラスに入るには5教科で“+20点”のノルマが必要だ。」
「それほぼ満点じゃないと無理だよね!?」
「現実を見ろ。」
「そんなぁぁぁぁーーー!!」
美羽の悲鳴がキャンパス中に響き渡り、
桜の花びらが笑って揺れた。
(でも……こうやって皆と笑っていられるのって、
本当に……幸せだなぁ。)
ちらりと横を見ると、椿が不機嫌そうにしつつ、
繋いでいない美羽の手をちらちら見ていた。
(……手、繋ぎたいのかな?)
指先をそっと伸ばすと、
椿の手がまたすぐに美羽をからめ取った。
その椿の行動に、
美羽の胸は新しい春のように温かく跳ねた。



