秋人が去ったあと、
病院の庭のベンチには、風の音だけが残っていた。

美羽はぼんやりと、その温度差に取り残されていた。

つい数分前まで
オッドアイの少年が座っていた場所に触れると、
まだほんのり温かい気がした。

「……何なのよ、もう……」

思わず、ため息がひとつこぼれる。

(秋人くん…
てか……“好きになっていいかな”って……あれ、やっぱり……告白……だよね!?)

顔が一気に熱くなる。

(いやいやいや!落ち着け私!!
こんな状態で、みんなのところに行くって、どんな罰ゲーム!?)

心臓を押さえながら、
美羽は半ば走るように病室へ向かった。




*病院の廊下

白い廊下は妙に長くて、
歩くたびに胸のドキドキが跳ね返ってくる。

(いっそのこと逃げ帰ろうかな……いや、ダメだよね……
……)

だけど――

(椿くんが、嫉妬して怒る顔も簡単に想像できるんだよね……!
こわ……いや、好きだけどさ!……)

頭の中が混乱でカオス状態だった。






その頃――黒薔薇メンバーの病室では。

白いカーテンが揺れ、
窓際の椿が腕を組んで外を眺めていた。

向かいのベッドで悠真があくびをしている。

碧、遼、玲央の順で横に並んで、
それぞれ点滴や包帯だらけ。

まるで“黒薔薇戦線後のミーティング”状態だった。

悠真「美羽ちゃん遅いなあ~。
ってかまたこの病室?デジャブじゃん~。
今日はマドレーヌが食べたい気分だな~」

遼「お前、それ昨日も言ってなかった?」

悠真「え、言ってたっけ?」

椿は眉間に皺を寄せて、

「もう着いててもおかしくねぇんだがな。」

そう呟きながら、顎に手を当てて外を見つめている。

(……検査の後すぐ、廊下で秋人に会った。
あいつ、俺と話してすぐ帰ったけど……
まさか……美羽と会ってねぇだろうな)

ピキ、と眉間の皺が深くなる。

【そして、それは見事に的中している。】

碧が苦笑しながら、

「なんか……椿くんイライラしてます?
看護師さんに“今日の夕食、牛乳つけてください”ってお願いしときましょうか?」

椿「いらねぇよ。」

遼は吹き出して、

「碧~!ストレート過ぎだろ!」

玲央はパソコンを打ちながら淡々と。

「ナースステーションでは椿の噂で持ち切りだ。
特別に牛乳ぐらいつけてくれるだろう。
カルシウムのデータも追加しておこう。」

椿「何に使うんだよ、それ。」

遼「はははっ、いらねぇだろ~!」

病室はすでに和気あいあいとした空気で満ちていた。






一方、美羽は病室のドア前で立ち尽くしていた。

(む、無理……入れない……
てかどんな顔して会っていいかわからない……絶対なにか言われる……!
特に……椿くんに……!)

両手で頬を挟んで、
扉の前でうろうろ。

そのとき――

ガラッ!

いきなり扉が開いた。

「トイレーっと……あ!美羽ちゃん!!」

悠真が飛び出してきた。

美羽「え!?」

思わず後ずさり、背中が壁に当たる。

悠真「やっと来たぁ~~!待ってたよ~!!」

美羽はほっと胸を押さえる。

(よかった……椿くんじゃなくて……!!)

悠真はすぐ気づいた。

「……なんか、美羽ちゃん。顔赤い?」

「え!?そう?そんなことないよ!?」

「ふ~~~ん?」

にやり、と悪戯っぽく笑う悠真。

美羽「な、なにその顔!!?」

悠真「そっか~、美羽ちゃんはそんなに僕に会いたかったんだね!!」

美羽「……え?」

悠真はクスクス笑って、

「さ、入って入って!みんな待ってるから!」

美羽の背中をぽん、と押した。