薄暗い第5北◯◯倉庫。
ひんやりとした空気が張りつめ、どこかで水が滴る音だけが微かに響いていた。

倉庫の中央で、スマホの光に照らされる横顔。
神楽怜は、画面を見つめながらゆっくりと口元を歪めた。

「……さぁ、パーティーの始まりだね。」

その声には、静かな狂気と甘美な愉悦が混じっていた。


*

倉庫奥の部屋。
重たい鉄扉の向こうには、手足を縛られた黒薔薇メンバーが横たわっていた。

最初に意識を取り戻したのは悠真だった。

「……ん……ここ、どこ……?
えっ、うそ……動けない!?
美羽ちゃんは!?美羽ちゃんどこ!!?!」

騒ぎに、すぐ隣の玲央が眉をひそめる。

「……悠真、うるさいぞ……。ここは……最悪の事態だな……。頭が痛い……」

玲央が片目を開け、眉を顰めた。
髪の間から、血が滲んでいる。


「玲央!頭殴られたの!?大丈夫?!」

「静かにしろ。思考が揺らぐ。」

続いて、碧が身を捩った。

「……お二人の声……悠真くんと玲央くん……ですか……
僕も捕まってしまいました。眠くなる蒸気のようなものをかけられて……
頭が……重いです……」

そのあと遼が大きく目を開く。

「うわっ!?なにここ!?縛られてるし身体痛ぇ!
やられたね、こりゃ。
……で、椿と美羽ちゃんは?」

ようやく全員が状況を飲み込み、空気がただならぬものに変わった。

碧が縄を見つめながら呟く。

「……ここがどこだかわかりませんが、銀狼の罠でしょうね……。」

悠真は歯を食いしばった。

「美羽ちゃん……大丈夫かな……!?
こんなの絶対許さない……早く助けないと!」

玲央が冷静に分析を述べる。

「おそらくここは……第5北◯◯倉庫だ。
椿と雨宮美羽は、まだ無事の可能性が高い。
確率は……88.5%。」

悠真は泣きそうな顔で叫ぶ。

「その数字、微妙に安心できないんだけど!!」

遼が肩を竦める。

「なんとか縄ほどくしかないねぇ、俺らだけで……」

その瞬間――

ギ……ギギ……。

鉄の扉がゆっくり開いた。

光の中に立つ影。

神楽怜。

その背後には、ずらりと並ぶ銀狼の不良たち、50人ほど。

怜はゆっくりバットを肩に担ぎ、笑った。

「惨めだね。
仲良く作戦会議かな?」

悠真が怒りで顔を赤くする。

「お前!椿と美羽ちゃんはどこだ!!」

玲央は冷静に睨みつけて言う。

「俺達をどうするつもりだ。
こんなことをしても君に得はない。」

碧は挑発的に笑う。

「正々堂々、勝負できないんですか?」

遼は呆れたように、

「女じゃないのがほんと残念だわ。ちっとも嬉しくないね、この状況。」

怜はつまらなそうにため息をついた。

「うるさいなぁ……。
でも、いいよ。どうせ君たちは“駒”だしね。
美羽さんは……僕のものだ。
黒薔薇の王のお気に入り?
そんなの、僕が全部壊してあげるよ。」

悠真は歯を食いしばって叫ぶ。

「美羽ちゃんがお前に構うわけねぇだろ!!気持ち悪っ!!」

怜は微笑み、うっとりとした声で言った。

「はぁ……何も分かってないね。
美羽さんは、もうすぐ僕に会いに来るんだ。
僕の“お姫様”だから。」

玲央は冷ややかに眼鏡を押し上げた。

「外見と中身がこの上なく乖離した、滑稽な人物だな。」

怜はぴたりと笑顔を止めた。

「……ん?何か言った?
いいよ、もう黙っててくれるかな?
……あぁ退屈だし、君たちで遊んであげて。」

怜が指示をすると、不良たちが一斉に入ってくる。

悠真は青ざめる。

「お、おい……!」

碧は苦笑い。

「数が……多すぎません……?」

遼もさすがに焦りを隠せない。

「やべぇねこれは……。」

玲央が短く呟いた。

「……椿、後は任せた。」

バタン――。

鉄の扉が閉まった。

怜は外で、くくっと喉の奥で笑いながらバットを回した。

「……さぁ、最高に楽しいシナリオにしようか。」


*

その頃――

ハーレーのエンジンが夜の町を切り裂くように響き渡る。

美羽は椿の腰に必死でしがみつきながら半泣き状態だった。

「つ、椿くんっ!!
ま、まだ着かないの!?ほんと無理ぃぃ!!」

椿は顔を少しだけ横にして叫ぶ。

「美羽、もうすぐだ。
しっかり捕まってろ!」

「さっきよりスピード上がってるってばぁぁ!!!」

風が二人の間をすり抜けていく。

――銀狼との決戦が、刻一刻と迫っていた。