美羽の驚いた声に、椿は眉をわずかに寄せた。
「……いたら悪いかよ?」
少し拗ねたみたいな声。
けれどその瞳は、美羽を見つけてホッとしたようにも見えた。
「い、いや!悪くないよ!ただ……びっくりしただけで……」
言葉がどんどん小さくなる美羽。
椿は手に持った本を美羽の胸元に押しつけ、そっぽを向いた。
「本取りにくいなら、台くらい使え。」
「う、うん…そうだよね!…ありがとう。」
さっきまで感じていた不安や照れ、そんなものよりも、
“椿が来てくれた”
その事実だけで、美羽の心臓はとっくに限界だった。
「椿くんも調べも――」
美羽が聞きかけた瞬間。
「会長〜〜!?どこ〜〜?課題手伝ってぇぇ〜!」
図書室中に響き渡る、聞き覚えある悠真の声。
「あ……悠真くんが椿くん探してるよ?ねぇ椿く――んむっ!?」
椿が突然、美羽の口を塞いだ。
左手で口を、右腕で腰を引き寄せ、
本棚の影に押し込まれる。
美羽の背中が棚に押され、思わず肩が跳ねた。
(……え!?近い……!なななに!?)
椿の吐息が耳にかかり、肌がぞくっと粟立つ。
「し。静かにしろ。」
耳元で低く囁かれ、美羽は耐えきれず小さな声を漏らした。
「んっ……」
自分から出たとは思えない、甘すぎる声。
(やだ……なんでこんな声出ちゃうの私……!?)
美羽の中の理性が焦り始めた瞬間、椿の腕にぎゅっと力が入る。
「今、悠真に見つかると……課題の事で時間かかって面倒なんだよ。」
……理由、そこなんだ。
でも、それ以上の問題がある。
(ちょっと……近い……!)
椿の胸が触れそう。
息の熱が耳を焦がす。
指が腰に触れて――
美羽の脳が真っ白になる。
少しして、悠真は
「んだよ〜、いないのかよ〜」
と文句を言いながら図書室から出ていった。
美羽はほっとした……のと同時に、自分の状況に気づく。
椿に抱きしめられたまま。
口元には椿の手。
腕はがっつりロックされている。
そして――
椿が、自分を見下ろしている。
美羽の目は潤んで赤く染まり、
上目遣いになっていた。
「……っ」
椿の息が、一瞬止まった。
そして次の瞬間、
椿の目が危うく光った。
「あ……悪い。美羽、大丈夫、か……?」
椿がそっと手を離した途端、
美羽の身体がガクッと揺れた。
「つ、椿くん……」
支えられた腕の中で、心臓の音が暴れまくっている。
椿は、ゆっくりと美羽の両手を取ると――
そのまま壁に押しつけた。
「美羽。お前が……煽ったんだからな。」
「え……?わ、私……?」
「そんな顔…、見せて良いのは俺だけだからな。」
椿の顔が近づく。
首筋に触れる息。
心臓が破裂しそうになる。
そして、
椿の唇が、美羽の唇に重なった。
優しいけど、逃がさないキス。
触れ合うだけのはずなのに、全身が熱くなる。
唇が離れたと思った瞬間――
椿は美羽の首元へゆっくりと顔を下げた。
「つ、椿……くん……?!」
「……うるせぇ。静かにしてろ。」
椿の唇が、そっと、美羽の首に触れた。
柔らかい音がして、
首にチクリと小さい痛みが走る。
「んっ……!?」
思わず声が漏れる。
図書室に時が止まる。
「椿くん!ここ…図書室だよ?!……だめっ…!」
椿は耳元で、余裕たっぷりの声で囁く。
「だから静かにしろって言ってんだよ。」
「ひゃっ!む、無理だ、よっ……!」
「……っ、美羽。お前ほんと……」
椿は一度ぐっと美羽を抱きしめ、額を美羽の肩に押し当てた。
そして思わずため息が漏れる。
「こんなんで、この先どーすんだよ……」
耳まで赤くしながら小さく呟く。
美羽の胸は、ぎゅうっと締めつけられる。
「……だ、だってぇ……」
涙が滲んだ声に、椿は顔を上げ、美羽の頬に触れた。
「悪かった。怖がらせたいわけじゃねぇ。
でも……お前が嫌がることは絶対しねぇよ。約束する。」
その言い方が優しくて、胸が痛いほど甘くて。
美羽はたまらず椿に抱きついた。
「うん……ありがとう。椿くん。」
椿も強く抱き返し、
しばらく二人は静かに抱き合った。
そして、離れた椿は、くすっと笑う。
「あと……今日は髪くくんねーほうがいいぜ?」
「え?なんで?」
「さぁな?」
椿はそう言って、美羽に背を向け図書室を出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、
美羽は“違和感”に気づいた。
慌てて手鏡を取り出し、首を見た。
「――――――っっ!?」
くっきり。
くっきり。
くっきり。
椿が先ほどつけたキスマークがついていた。
美羽は図書室の静寂を突き破るほどの声で叫んでしまった。
「はぁぁぁあああああああああああ!?!?」
図書委員「静かにしてください!!」
美羽「ご、ごめんなさいぃぃい!!」
世界で一番赤くなった顔のまま、美羽の昼休みは終わった。
「……いたら悪いかよ?」
少し拗ねたみたいな声。
けれどその瞳は、美羽を見つけてホッとしたようにも見えた。
「い、いや!悪くないよ!ただ……びっくりしただけで……」
言葉がどんどん小さくなる美羽。
椿は手に持った本を美羽の胸元に押しつけ、そっぽを向いた。
「本取りにくいなら、台くらい使え。」
「う、うん…そうだよね!…ありがとう。」
さっきまで感じていた不安や照れ、そんなものよりも、
“椿が来てくれた”
その事実だけで、美羽の心臓はとっくに限界だった。
「椿くんも調べも――」
美羽が聞きかけた瞬間。
「会長〜〜!?どこ〜〜?課題手伝ってぇぇ〜!」
図書室中に響き渡る、聞き覚えある悠真の声。
「あ……悠真くんが椿くん探してるよ?ねぇ椿く――んむっ!?」
椿が突然、美羽の口を塞いだ。
左手で口を、右腕で腰を引き寄せ、
本棚の影に押し込まれる。
美羽の背中が棚に押され、思わず肩が跳ねた。
(……え!?近い……!なななに!?)
椿の吐息が耳にかかり、肌がぞくっと粟立つ。
「し。静かにしろ。」
耳元で低く囁かれ、美羽は耐えきれず小さな声を漏らした。
「んっ……」
自分から出たとは思えない、甘すぎる声。
(やだ……なんでこんな声出ちゃうの私……!?)
美羽の中の理性が焦り始めた瞬間、椿の腕にぎゅっと力が入る。
「今、悠真に見つかると……課題の事で時間かかって面倒なんだよ。」
……理由、そこなんだ。
でも、それ以上の問題がある。
(ちょっと……近い……!)
椿の胸が触れそう。
息の熱が耳を焦がす。
指が腰に触れて――
美羽の脳が真っ白になる。
少しして、悠真は
「んだよ〜、いないのかよ〜」
と文句を言いながら図書室から出ていった。
美羽はほっとした……のと同時に、自分の状況に気づく。
椿に抱きしめられたまま。
口元には椿の手。
腕はがっつりロックされている。
そして――
椿が、自分を見下ろしている。
美羽の目は潤んで赤く染まり、
上目遣いになっていた。
「……っ」
椿の息が、一瞬止まった。
そして次の瞬間、
椿の目が危うく光った。
「あ……悪い。美羽、大丈夫、か……?」
椿がそっと手を離した途端、
美羽の身体がガクッと揺れた。
「つ、椿くん……」
支えられた腕の中で、心臓の音が暴れまくっている。
椿は、ゆっくりと美羽の両手を取ると――
そのまま壁に押しつけた。
「美羽。お前が……煽ったんだからな。」
「え……?わ、私……?」
「そんな顔…、見せて良いのは俺だけだからな。」
椿の顔が近づく。
首筋に触れる息。
心臓が破裂しそうになる。
そして、
椿の唇が、美羽の唇に重なった。
優しいけど、逃がさないキス。
触れ合うだけのはずなのに、全身が熱くなる。
唇が離れたと思った瞬間――
椿は美羽の首元へゆっくりと顔を下げた。
「つ、椿……くん……?!」
「……うるせぇ。静かにしてろ。」
椿の唇が、そっと、美羽の首に触れた。
柔らかい音がして、
首にチクリと小さい痛みが走る。
「んっ……!?」
思わず声が漏れる。
図書室に時が止まる。
「椿くん!ここ…図書室だよ?!……だめっ…!」
椿は耳元で、余裕たっぷりの声で囁く。
「だから静かにしろって言ってんだよ。」
「ひゃっ!む、無理だ、よっ……!」
「……っ、美羽。お前ほんと……」
椿は一度ぐっと美羽を抱きしめ、額を美羽の肩に押し当てた。
そして思わずため息が漏れる。
「こんなんで、この先どーすんだよ……」
耳まで赤くしながら小さく呟く。
美羽の胸は、ぎゅうっと締めつけられる。
「……だ、だってぇ……」
涙が滲んだ声に、椿は顔を上げ、美羽の頬に触れた。
「悪かった。怖がらせたいわけじゃねぇ。
でも……お前が嫌がることは絶対しねぇよ。約束する。」
その言い方が優しくて、胸が痛いほど甘くて。
美羽はたまらず椿に抱きついた。
「うん……ありがとう。椿くん。」
椿も強く抱き返し、
しばらく二人は静かに抱き合った。
そして、離れた椿は、くすっと笑う。
「あと……今日は髪くくんねーほうがいいぜ?」
「え?なんで?」
「さぁな?」
椿はそう言って、美羽に背を向け図書室を出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、
美羽は“違和感”に気づいた。
慌てて手鏡を取り出し、首を見た。
「――――――っっ!?」
くっきり。
くっきり。
くっきり。
椿が先ほどつけたキスマークがついていた。
美羽は図書室の静寂を突き破るほどの声で叫んでしまった。
「はぁぁぁあああああああああああ!?!?」
図書委員「静かにしてください!!」
美羽「ご、ごめんなさいぃぃい!!」
世界で一番赤くなった顔のまま、美羽の昼休みは終わった。



