◇◆◇


『ごめん』

一葉に送ったメッセージが既読になってから三日経つけど返信はない。
あんなに頻繁に泊まりにきてたのに、全然こなくなった。
ごめんって言ってるのになんで無視するの?
…それだけ一葉を傷付けたってことなんだろうけど。

『ごめん』

もう一回送る。

『どうしたら許してくれる?』

送信。

『傷付けるつもりはなかったんだよ』

送信。

『あのとき、俺も受け入れたいって思ったから』

送信。

『怒らないで』

送信。

『返信して』

送信。
既読になるけど返信なし。

「っ…」

一葉の馬鹿。
なんで返信してくれないの。
なんで許してくれないの。
なんでわかってくれないの。
なんで、そんなに傷付いてるの…。

「……馬鹿は俺か…」

一葉になりたい。
一葉になれれば完璧。

でも一葉だって人間だから傷付くし怒る。
俺はそういうところを見てなかった。
いつでも一葉は笑ってそばにいてくれると思っていた。
どうして恋人なのって思ってた。
どうして幼馴染じゃだめなのって思ってた。
どうして俺が好きなのって思ってた。
どうして俺なんかなの、恥ずかしい思いするよって思ってた。
そういうの全部、一葉を傷付けていたのかもしれない。

「………やっぱり俺のないものねだりは直らない」

今すぐ一葉の笑顔に会いたい。
心にぽっかり空いた一葉の形の穴は、一葉じゃなければ埋められない。


◇◆◇


インターホンを押す。
反応なし。
もう一回押す。
反応なし。
更に押す。
がたっとドアの向こうで音がした。

『なんでいんの』

スピーカーから不機嫌丸出しな声が聞こえてくる。
モニターで俺の姿を確認したか。

「会いたいから来た」
『帰れ』
「やだ」
『俺は会う気ない』
「わかってる。だから出てくるまで待つ覚悟で来た」

コンビニおにぎりにスポーツドリンクにお茶、もう暑くなってきたけど念のためブランケット。
ドアの前に座り込む。
とりあえず腹ごしらえをしようとおにぎりのパッケージを開けようとしたらドアが開いた。

「……馬鹿か」
「うん」
「………」

じっと俺を見る目は、なにか言いたそうだ。
その表情は苦しそうで。

「………入れよ」
「うん」

おにぎりをしまって立ち上がる。
部屋に入るとどきどきしてきた。

「…なんの用」

床に座る一葉に向かい合うように正座する。
深呼吸。

「俺を左野一葉の恋人にしろ」

ぽかんとした顔。
そのまま一葉が固まってしまうので、俺はただ答えを待つ。
心臓の音が、俺の座る床を伝って部屋中に響きそうなくらい激しい。
じっと一葉の目を見る。

「………馬鹿が」
「っ…!」

伸びてきた腕に勢いよく抱き寄せられて、そのまま一葉の腕の中に閉じ込められる。
一葉のにおい。
小さい頃から、それがそばにあって当然だと思ってた。
そっと一葉の肩に額をつけると、髪を撫でられた。

「絶対離してやらない」

聞き慣れた声が震えていて、俺も視界が滲んでくる。
少し身体を離す一葉。
ゆっくり顔が近付いてきて、瞼を下ろす。
温もりが優しく重なった。

幼馴染じゃ、もう収まらない。



END