鬼景色



 * * * *


 まだ日中であるにもかかわらず、重い雨雲のせいで町並みは日暮れのように暗くよどんでいた。灰色の空の下を急いだ鬼は、「紅屋」に駆け込んだ。

 雨気を吸って湿った暖簾は軒先にかけられたままで、突然の鬼の到来に、バサリと揺れる。
 鬼は蹴り飛ばすように履き物を脱ぎ、家屋の中に入った。
 挨拶さえせず、襖をピシャリと開くと同時に、鬼は厳しい口調で問うた。

「ザクロ、景をどこにやった」

 奥の畳の座敷には、いつものように、襟口をわずかに着崩したザクロが寝そべるような姿勢で煙管(きせる)をふかしていた。
 まるで鬼の到来を予想していたようだった。

 むしろ、
「遅かったね、鬼」
 とまで(のたま)う始末だ。

 鬼の足袋(たび)は雨を吸って濡れていたが、かまわずに畳に上がって、すました顔のザクロに迫った。

「茶番を演じるのもいい加減にしろ、ザクロ。景は、あなたが殺しを請け負うような女ではない。裏になにがある? 景はどこにいる? 剣が手を出したのか?」

 ザクロはくつくつと笑う。

「おお、饒舌なる鬼よ。今のはおそらく、あたしが聴いた中で最も長いあんたの科白だね。景姫さんはあんたの氷の舌まで溶かしたんだ。もうちょっと長く生きててくれりゃ、あんたも囃子を踊り出しただろうにねえ」

 こんなふうに、感情が爆発したのははじめてだった。
 ずっと胸中でくすぶっていた重い鉛の塊が爆ぜて、鬼の鎖骨をバラバラにして、胸を血だらけにされたような衝撃だった。
 世界が反転した。

 おケイ、おケイ、おケイ……。

 鬼はやっと、父の気持ちを心から理解した。
 そして、幼い鬼を置いてこの世を去った父を許した。なぜなら……耐えられるはずがない。たった数日を過ごしただけの鬼でさえ、この有様なのだから。