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まだ日中であるにもかかわらず、重い雨雲のせいで町並みは日暮れのように暗くよどんでいた。灰色の空の下を急いだ鬼は、「紅屋」に駆け込んだ。
雨気を吸って湿った暖簾は軒先にかけられたままで、突然の鬼の到来に、バサリと揺れる。
鬼は蹴り飛ばすように履き物を脱ぎ、家屋の中に入った。
挨拶さえせず、襖をピシャリと開くと同時に、鬼は厳しい口調で問うた。
「ザクロ、景をどこにやった」
奥の畳の座敷には、いつものように、襟口をわずかに着崩したザクロが寝そべるような姿勢で煙管をふかしていた。
まるで鬼の到来を予想していたようだった。
むしろ、
「遅かったね、鬼」
とまで曰う始末だ。
鬼の足袋は雨を吸って濡れていたが、かまわずに畳に上がって、すました顔のザクロに迫った。
「茶番を演じるのもいい加減にしろ、ザクロ。景は、あなたが殺しを請け負うような女ではない。裏になにがある? 景はどこにいる? 剣が手を出したのか?」
ザクロはくつくつと笑う。
「おお、饒舌なる鬼よ。今のはおそらく、あたしが聴いた中で最も長いあんたの科白だね。景姫さんはあんたの氷の舌まで溶かしたんだ。もうちょっと長く生きててくれりゃ、あんたも囃子を踊り出しただろうにねえ」
こんなふうに、感情が爆発したのははじめてだった。
ずっと胸中でくすぶっていた重い鉛の塊が爆ぜて、鬼の鎖骨をバラバラにして、胸を血だらけにされたような衝撃だった。
世界が反転した。
おケイ、おケイ、おケイ……。
鬼はやっと、父の気持ちを心から理解した。
そして、幼い鬼を置いてこの世を去った父を許した。なぜなら……耐えられるはずがない。たった数日を過ごしただけの鬼でさえ、この有様なのだから。

