景は寝かされたままザクロの方へ顔を向けて、その背後を観察した。そこは洒落た雰囲気の、立派な座敷だった。
襖には羽を広げた鶴の見事な絵が。
床の間には大陸から伝来したのではないかと思われる、白地に青い小花模様の焼きつけられた陶器の大花瓶が飾られている。
「ここは……」
「なにも取って食いやしないから安心おし。まぁ、少なくとも今のところはね。あたしも歳を取ったのかもしれないねぇ……こんなお節介を焼くだなんて」
なぜか、反抗したり、声を上げたりする気にはなれなかった。
このザクロという女は、もしかしたら妖の類なのではないかと思えるほど、不思議に引きつけられる魅力があった。
駄目だとわかっていても魅せられる……そう、まるで鬼のような……。
「まず最初に」
と、ザクロは切り出した。
「あんたのことを最初にあたし達に依頼してきたのは、あんたの義理母だよ。おきくとか言ったかい? あれは本当に碌でもない女だね。頭の皮を剥いでやろうかって思ったくらいだよ」
唐突におきくの名前が出てきて驚き、景は上半身を起こした。
「依頼……?」
「おや、鬼はなにも言わなかったのかい?」
鬼……。
その名前を聞くだけで、景の胸は痛いほど膨れ上がった。手足が震えた。呼吸が乱れた。
涙が、溢れてくる。
「鬼殿が……」
「あたしはねぇ、いくら殺し屋稼業をやってるからって、心がないわけじゃないんだ。世間の裏の裏を生きてきて、こういう仕事も必要だって悟っただけの話さ。だから、器量良しで気立てのいい義理の娘に嫉妬した阿呆女の依頼なんて、受けたりはしないんだよ。いつもはね。でも、あんたの話を聞いてて、なんだか興味が湧いたのさ」
ザクロの白い手が伸びてくる。
思ったよりも熱い指が、景の頬をそっと撫でた。
「あの可哀想な男には、あんたのような娘っ子がぴったりなんじゃないかってね」
微笑むと、ザクロの瞳は薄い三日月のような形を描き、どうにも目を離せない美しさになった。
この女は誰なんだろう……。なんなのだろう。
ザクロという名で、鬼のことを知っている……奇妙なひとだ。

