鬼景色


 雨ににじんだ薄靄が、古木に囲まれた塀を取り囲んでいるのをぼんやりと眺めながら、景は自室の前の縁側に腰を下ろして黙り込んでいた。
 強く降り出した雨が、すっかり空洞となった景の心を冷たく打ちすえる。

 これほどの空しさを感じるのは、幼い頃、母が亡くなった時以来かもしれなかった。あの頃、景はほんの童女でしかなかった。感情を制する方法などまったく知らず、溢れる寂しさにただただ枕を濡らした。

 しかし、今の景はもう童女ではない。
 なにも知らなかったあの頃の子供ではない。
 涙を止める方法など、すでに両の手の指でも数え切れないほど知っているはずだった。

(それなのに、どうして……)
 どうして、涙が止まらないのだろう。

 景の涙は、降り止まない雨と同じように頬を伝い続けた。
 たった三日、ともに時を過ごしただけなのに、景の心はすでに鬼の存在の虜になっていた。鬼のあの堂々とした男らしい姿に。あの暗いのに澄んだ深い瞳に。あの高貴な心に。

 景の心は鬼に染まっていた。
 一度色に染まった白い生地が二度と白には戻れないのと同じように、景の心も、鬼と出会う前に引き返すことはできなそうだった。

(もういっそ……)
 いっそ、あの暴漢が再び襲いに来ればいいのに。

 そうしたら鬼はまた助けに来てくれるだろうか。なにがしかの責任を感じて、また景の身を守ってくれるだろうか。父が心を変えて、再び鬼を雇ってくれるのではないだろうか……。

 すべては虚しい空想だった。
 わかっている……多分、景はもう二度と鬼に会うことはない。