鬼景色


「で、では……」
 景はとまどいながらも鬼の差し出した傘の下に入ると、ふたりは玄関から一緒に外へ出た。

 門までの庭道はほんの十五歩ほどである。しかしその十五歩が、一歩、一歩、なにか特別な意味を持っているように重く、憂鬱で、悲しいもののように時間がかかった。

 五歩目で、鬼は、足が地中に沈んでいくような気がして、無理やり身体を前に進めなければならなかった。
 十一歩目には、息がきれるような痛みを肺に感じた。

 そして門にたどり着く一歩手前、鬼は景を見下ろし、景は鬼を見上げ、ふたりは見つめあった。
 そして鬼は自分が、どうにかして……なにか奇跡のようなものがおきて、ふたりがこのまま一緒にいられる方法はないかと、真剣に考えているのに気がついた。

 門のすぐ横、外の通りに面した場所に、警護の者が槍を抱えて立っている。やっと二十歳に届くかどうかという若造で、真面目そうではあるがたいした使い手ではなく、鬼や剣にかかれば一瞬にしてなんの役にも立たなくなるのは目に見えていた。

 鬼がこのまま去れば、景の命はまさしく秒読みに入ることになる。

「気をつけろ」
 口が勝手に動き、景にそう告げていた。
「え?」
「外に出るな。嫌でもなんでも、一人になるな。俺のような者が隣にいない限り、一瞬たりとも油断するな」

 景はきょとんと瞳をまたたき、鬼の言葉の意味をなんとか理解しようと頭を動かしているようだった。

「あ……あなたのような者?」
「そうだ。お前に近づこうとする輩がいれば、なんの躊躇もなく一瞬で其奴(そやつ)を切り捨てることのできる男……。お前を守るためなら、腕を切り落とされても、痛みさえ感じないような男だ」

 言葉を失った景が、某然とした顔で鬼を見上げている。
 雨水が傘の表面に打ち付け、やかましい太鼓のように小刻みな音を弾かせる。この三日で何度目になるのだろう、景と鬼は見つめあった。

 無言の誓いが交わされる。
 鬼はそれ以上なにも言わず、景に背を向けると、雨が作る灰色の霧の中に消えていった。