「で……では……外へご案内しなければいけませんね……」
崩れてもいない着物の裾を直しながら、景はゆっくり立ち上がってふらふらと襖に向かっていく。わざと目を合わせないようにしているのだろう、顔を無理に逸らしているせいで、細くて白いうなじの曲線が鬼に向かってあらわになった。
鬼はここで、一瞬にして景の命を散らすことができた。
賃金は得た。
鬼がここで消えれば、その隙をみた剣が、今すぐにでも彼女を消しに現れるだろう。勝ち負けを決める争いをしているわけではないが、鬼も剣も互いに、相手に負けたくないという思いが少なからずある。殺るなら今だった。
今、だ。
鬼の心臓がどくりと強く一打ちした。経験にあふれた鬼の手が、無意識に刀の柄に触れる。
景は開いた襖の枠に手をかけ、そこで一瞬だけぴたりと動きを止めた。
音もなく立ち上がった鬼は、すぐに景の真後ろにつく。
景はそのまま部屋を出ようとして、足袋を履いた足を廊下へ一歩、進ませた。
鬼の手が刀の柄を強く握り、音も立てずに鯉口を切る。銀の刀身が鈍い光を放ち、解放され、そのまま一気に細い首を……
「あの、鬼殿」
景はふいにその名を呼ぶと、後ろを振り向いた。鬼の姿が思ったよりもずっとすぐ近く、真後ろにあったことに驚いたようで、あわてて何度も目を瞬きながら長身の彼を見上げている。
鬼の手は知らずのうちに刀を鞘に収めていた。

