鬼景色


「あれから三日経ちました。特に大事もなかったようですし、もう娘の警護も必要ないかと思いましてな……」

 鬼は、やはり無言で景の父を見すえていた。
 そして、景の瞳が傷つき、外の雨雲のように重く曇るのを横目に感じていた。

「もちろん、しばらくは屋敷の守りも厳しくしますし、娘はあまり外へ出さないようにいたします。今夜は雨になりそうですし、誰もこれやしませんでしょう。こちらは約束の賃金です」

 懐からそっと出した布の包みを、鬼の足元へすっと差し出すと、景の父はわずかに頭を下げた。

 ──この男はなにも分かっていないのだろうか。
 それとも、すべてを承知の上で芝居を打っているのだろうか。

 どちらでも構わなかったはずだ。そもそも、鬼の仕事は景を葬ることであり、彼女を護ることにしたのはただの気まぐれにすぎない。または、この賃金のために。
 または、ほんの少し彼女の声を聞いていたかったために。

 どれも達成したではないか。鬼は引き続きなにも言わず、静かに包みを受け取ると、中身も確認せずに懐へ収めた。景の父は満足げにうなづくと腰を上げた。

「では、わたしはこれにて。景、鬼殿を門までお送りしなさい。外に出るのではないぞ」

 立ち上がった父を見上げながら、景は震える声で、
「はい……」
 と答えたが、その視線はどこか虚ろだった。まだよく状況が飲み込めていないように、ぼんやりと開かれた景の唇は、心なしか徐々に色が悪くなっていくようにさえ見える。

 鬼自身も、まるで着物がぐったりと濡れそぼったように、急に肩のあたりが重くなるのを感じていた。あるいは、めまいのような不快さを全身に感じて動けなかった。

 父が去ったあとの部屋は、雨音だけがいやに重く響き、ふたりはしばらく無言で時をやり過ごしていた。
 どのくらい経ったか、ふと先に口を開いたのは景だった。