大きく澄んだ目が、まっすぐに鬼を見つめている。彼女の黒目がちな瞳は、深い愛情をたたえて誰かを追っているようで、着物からのぞく細い首は、密かに触れられるのを待っているようであった。
鬼も阿呆ではない。
己に心はないが、他の人間がそれを持っていることを否定する訳でもない。
景はおそらく、大人の男とこれほど長く二人きりでいたことはないのだろう。ただの幻覚ではあるが、思慕を抱くような気持ちになってしまうのも、無理はないのかもしれない。
そう、ただの幻覚だ。
「鬼殿、今夜は……」
景がそう言いかけたときだった。人が近づいてくる気配を感じて、鬼はすぐにでも立てるように背筋を伸ばして遠方を睨んだ。景も異変に気が付いたようで、口をつぐむ。
誰かの足音が近づいてくる。しかし、待ち受けるまでもなく、その人物はすぐにふたりの前に姿を見せた。
「お父さま」
驚き半分、安心半分といった表情で、景はつぶやいた。鬼は黙っていた。
「鬼殿、楽にしてください。今日は話があって来ました」
立ち上がろうとした鬼に、景の父は和やかにそう告げて、ゆっくり近づいてくると自らもふたりのそばに腰を下ろした。おきくも下人も伴っていないので、その場は三人だけとなっている。
「本日も、何事もなかったようですな」
「ええ、お父さま」
答えたのは景だった。父は満足げにうなづく。鬼はこれといって口を挟まなかった。
しかし、あまりいい予感はしなかった。今までこの父が景の様子を見に来る時、座り込むことなどなかったからだ。案の定、景の父は少しの間、居心地悪そうに姿勢を正して咳払いをしたあと、鬼のほうへ向き直った。

