ひと振るいが静寂を切り、さらに次の手が音もなく見えない敵を切り刻む。鬼の足は軽やかに地を蹴り、自在に立ち位置を変えて敵対者を戸惑わせた。
そして、彼の瞳はつねに冷ややかで、まるで能面のように微動だにせず、その洗練された動きの向こうにどんな心が隠されているのか知るのは難しかった。実際の戦いでも、彼はきっとこうなのだろう。
彼と戦わなければならない者は、底冷えのする恐怖を味わうと同時に、一種の恍惚とした心境に陥るのではないか。
まさに、鬼だ。
「……っ!」
しなった竹の細棒の先端が、ぼうっと鬼に見惚れていた景の人差指を弾くように切った。
簡単そうに見えて、竹籠作りは熟練と集中力がいる複雑な手仕事だ。景は自身のうっかりさに気付き、恥じ入るように傷ついた指を隠そうとした。
しかし。
相手は鬼だ。
「指を切ったか」
質問ではなく、断定の口調で、鬼はすでに景に向かって歩いてきていた。いったいいつ刀を鞘に戻したのだろう。音も気配もなかったのに、鬼の刀はすでに腰に収まっている。
「す、少しかすっただけです。なんでもありません」
慌ててそう説明しながらも、景は指先に赤いものがつっと滴(したた)るのを感じていた。
なぜか、その赤が、あらざるべき鬼への淡い思慕を象徴しているように思えて、景はぎゅっと逆の手で傷のついた指を握りしめて隠した。
見ないで。
気付かないで、と。
しかし鬼は簡単に景の手を取り、あっと声を漏らす間もないうちに、怪我した指を目前にさらした。幅は狭いが、深く切れていたようで、深紅の血がじわりとにじむように膨れ出てくる。
「鬼……ど、の」
景は抵抗するように呟いた。

