鬼景色


 その日は蒸し暑く、まだもう少し先になるだろうと思われていた蝉の音が、どこか庭の先から聞こえてくるほどだった。

 景はわずかに正座を崩して楽にした格好で縁側に座り、鮮やかに宙を舞う鬼の太刀筋に見惚れながら、時々籠を編む手を休めては心の中で呟いていた。

 ええ、退屈なんてするはずがないわね、と。

 朝餉の盆を片付けてから部屋に戻った鬼と景は、それぞれがそれぞれのすることを黙々と続けているばかりだった。すなわち、鬼はひとりで刀の稽古をし、景は趣味であり、わずかに家計を助けてもいる竹籠作りに取り組んでいた。

 部屋の障子を開けたままに。鬼の目の届くところに常にいるのだと、景はながば命令されたにも関わらず、その結果に十分に満足していた。

 鬼の、目の届くところに。
 つまり、鬼『が』、景の目に届くところに。

 鬼の稽古は、景がこれまで見たことのある誰の稽古とも違っていた。もはや同じ単語を使って表現していいとさえ思えない技術の違いだ。
 彼が振るう刀は、構えに戻るまでその刃先が目に見えないほどの早さで宙を切った。

 よく見る正眼の構えをすることは少なく、下段と言われるような刀の切先を地面に向ける姿勢を取ることが多いのにも気が付いた。それは、無駄に気負うことなく、まるで勝利を確信している猛者の余裕にさえ見えた。