鬼景色


 昔、家族と一緒に朝食をとっていた茶の間は、今はおきくに陣取られている。
 行っても延々と嫌味を聞かされるだけなので、景はいつしか、ひとりで部屋で食事を取ることがほとんどになっていた。今ではもう不満にさえ思わなくなっていたが、鬼を前にして、景は少しばつの悪い思いをした。

 探るような鬼の視線が、景の全身を這う。
 不快に思っても不思議はないくらいの執拗な目なのに、なぜかこのままからめとられ続けていたいような、夢心地に陥った。ああ、景はいよいよ憑かれたのかもしれない。

 この美しい鬼に。

「俺はお前を守るためにここにいる」
 鬼は静かに宣言した。「朝飯を用意させるためではない。行くのなら、俺も行こう」

「で、でも……お武家さんにそんなことはさせられません」
「ほとんどの武士はお前の家などよりずっと貧しい暮らしをしている。自分の膳くらい、自分で運ぶさ」
 でも、と再び開きかけた口を、景は結局つぐむことにした。

 鬼は誇り高い人ではあるが、虚栄心というものはほとんどないようである。下士と言っていたし、それほど位の高い家の出ではないのかもしれない。着ている着物は上質のものに思えるし、携帯している刀は間違いなく名人の手によるものであるが……。

 どういう人なんだろう。
 もっと知りたい。
 もちろん、知ったからといって、景の抱くほのかな想いが叶うはずはない。それは分かっている。でも。
「来い」
 と、鬼は短く景をうながした。
 景に、断れるはずもない。鬼は縁側に上り、景はその横につき、ふたりは静々と廊下を並んで歩いた。