明るみに目を細めると、鬼が庭の先にひとりで立っているのがすぐ視界に入ってきて、景はその場に立ち尽くしたまま息を呑んだ。
鬼は雑草の生えている辺りに立ち、景のほうを静かに見つめている。それが夢の中の鬼と重なって、「鬼」、まるでその名が示す通り、彼はこの世のものならざらぬ存在であるように感じられた。
景は憑かれたように動けなくなり、彼の強烈な眼差しに圧倒されていた。と、同時に、激しく惹かれてもいた。
ああ、これこそまさに、取り憑かれるということなのでは……。
突然現れた妖しい鬼に、心をもぎ取られたのだ。まるで夏の夜に語られる怪談の一編のように、恐れながらも聞き入っては、気が付くと一語一語が耳から離れなくなって、忘れられなくなっていく。まさにそれだ。
鬼は微笑んだりしなかったが、かといって邪険な顔をするわけでもなく、じっと研ぎすまされた視線で景の一挙一動を見つめている。
なぜ、と景の胸は高鳴った。
なぜ、このひとの瞳に心が震えるの。なぜ、このひとはこんなふうにわたしを見つめるの。
なぜ……。
「お、おはようございます、鬼殿」
景はなんとか声を絞り出した。
いったい、鬼は昨夜眠れたのだろうか。眠れたとしたら、どこで、どのように寝たのだろうという疑問はあったが、それを鬼のような男に一々聞くのもまた、不毛に思えた。多分、彼は説明してくれないだろう。
「眠れたのか」
鬼は挨拶を返さなかったが、彼の言葉少なさはあまり不遜な感じがしない。景は微笑んでこくりとうなづいた。
「はい。朝方、少しだけですが、なんとか」
「それでいい」
「朝餉(あさげ)なのですが、台所まで取りにいかなければなりません。ここで少しお待ちいただけますか」
景が断りを入れると、鬼はピクリと眉を動かした……ような気がした。
「下女はいないのか」
「もちろんおります。でも、ここまで毎朝来るわけではないのです。呼ぶのも面倒ですし、いつも自分で取りにいって、ここで食べます」

