手入れの行き届いていない鬱蒼とした松林が、ざわざわと不気味な音を立てて揺れる。
景にできたのは、何度か瞳をまたたくことだけだった。
気が付くと、景ののど元に鬼の刀の切先が突きつけられていた。あまりの速さで、景は風さえ感じなかった。ただ、刀の峰の冷たさだけがじんわりと首に伝わってくるのに、景は凍りついた。
鬼はまさに鬼神のような冷酷な瞳を景に向けている。
ふたりの視線は強くからみ合って、どちらも一寸たりとも動かなかった。
しばらく無意識に呼吸を止めていた景は、胸が苦しくなってすうっと息を吸い込んだ。その途端に鬼の刀がほんの少し喉に食い込み、鋭い痛みを感じると、景の瞳から涙がこぼれた。
いいえ、違う──と、景は胸の中で否定した。
痛いのは刀ではない。
鬼に向けられた冷たい視線が、痛い。
鬼の瞳に星が見えないのが悲しい。このまま斬られてしまえば、もう彼に会えないのだということが辛い。
最期に見る鬼の目が、こんなふうに冷たいのが切ない。
景はそっとまぶたを伏せて目を閉じた。
そして、鬼を恨まないでいようと心に決めた。彼に助けてもらわなかったら、景の命はすでに昨日終わっていたのだろうから。彼に出逢わなければ、景はまだ殿方を慕う心を知らないままでいたのだろうから。
たとえほんの短い間でも、鬼は景に幸せな気持ちを与えてくれた。
彼にしかできない、不思議なかたちで。

