そんなはずはないと思う自分と、なぜそんなはずはないと言い切れるのかと反論する自分とが、景の中でせめぎ合う。
景の身体は無意識に動き、気が付けば襖のすぐ前まで歩いて来ていた。緊迫した鼓動がうるさく、集中するのは容易でなかったが、景はなんとか耳を澄まして襖に手をついた。
──なにも聞こえない。
不自然なほどすべての雑音が止んでしまっているように思えた。もし本当に暴漢だか刺客だかが襲来したのだとしたら、こうして襖に近づくのは賢くないはずだ。しかし、景にとっては自分の命よりも鬼の安否の方がずっと大事だった。
金属音は一度だけしか響かなかった。
つまり、それだけで決着がついてしまったということなのかもしれない。景は指先が震えるのを止められなかった。
まさか、まさか。
今、景が部屋から飛び出したとして、それは鬼の助けになるだろうか。それとも足手まといになり、彼に迷惑をかけてしまうだろうか。
(でも、もし……)
鬼が怪我をしていたとしたら?
彼を助けられるのが自分だけだとしたら?
そう考えると、景はいても立ってもいられなくなり、部屋の襖を開けていた。

