鬼景色



 景は眠れなかった──いったい、どうやって眠ることができるというのだろう。

 いくつもの思いが胸をついて離れず、浮かんでは消え、消えてはまた浮かびを繰り返し、いつまでも景の心をかき乱し続けた。


 布団の上に正座したまま、景はまだ幸せだった子供の頃を思い出していた。
 優しかった母、一度だけ海岸へ連れて行かれて海を見た夏の日。いつのまにか、すべては遠い日の記憶として景の心の底に沈んでいたのに。
 そしていつのまにか、景の心はその記憶と一緒に、どこか暗くじめじめした場所へ隠れていたのだ。まるでこの暗がりの部屋に閉じ込められている自分自身のように。
 それを解き放ったのは、鬼だ。

 鬼は、景は命を狙われていると言った。
 鬼は、稲妻のように突然景の前に現れて、彼女を救った。そして今も、景を守っていてくれている。たとえその理由が、父の出す礼金のためであっても。

 もし景に、まだ生きていたいと思う理由があったとしたら、それはあの鬼の深い瞳をもっと覗いてみたいという望みだけだった。
 あの低い声をもっと聞いてみたい。
 あの闇のような髪が風になびく姿を見てみたい。そして許されるなら、心などないといった彼の深層を知り、触れてみたいと思った。
 もちろん、許されない願いだけれど。