「俺は心の狭い男ではない。どうだ、この際、一緒にあの小娘を襲うというのは?」
剣の声はどこか楽しそうだった。
「お前はあの白い首を切ったらどうだ。心臓は俺がいただこう。若い生娘の肌から溢れる血はさぞかし香り高かろ──」
その瞬間、鬼の刀が素早く闇を切った。
はらりと音ならぬ音がして、剣の髪の一部が──喉のすぐ近くから──地面に散るように落ちる。一瞬のことだった。
しばらくの沈黙ののち、剣は己の頬に手を当てるとにやりと口の端を上げた。ほんの皮一枚だけ、剣の頬は横に切られていた。剣もこの道の玄人だ。これがどれだけ高い技術を必要とするのか、よく分かっている。
「面白い。お前には心というものがないのかと思っていたが──」
剣は腰に携えた刀の柄に手を添え、鯉口を切った。
鬼は黙って剣が刀を抜くのを待った。
刀を抜きとった剣はすぐに正眼に構えたが、鬼は構えを取らずに、切先を地面に向けたまま相手と対峙した。もしこの場に別の人間がいたら、その者は鬼と剣の気迫だけで身を千に切り刻まれたような痛みを感じるはずだ。
それほど鋭い空気が辺りに満ちていた。
「心を奪われたのはお前の方か、鬼」
「あれは俺が殺る」
「では一体、なにを待っている」
じりりと剣が間合いを狭めてきた。
お互いの戦い方はよく分かっていたから、鬼はこれ以上、剣に近づかせるつもりはなかった。剣は渾身の力を込めて敵を一刀両断するような荒々しい技を得意としている。対して鬼は、刀の切先だけを使って鮮やかに急所を切り裂くような、速さと技術を使うことが多かった。
乾いた風が吹くと同時に、ふたりは踏み込み合った。
鬼の刀が飛燕のように宙を舞う。

