鬼景色


 庭園の先にそろっている松の木の陰から、剣は音もなく現れた。

 刀はまだ腰に帯びたまま、濃い灰色の着物に身を包み、髪は結わずに肩まで垂らしていた。南蛮の血が入っていると噂のある剣の髪は、薄い茶色をしていて、癖のある波を打っている。

 鬼が闇であるなら、剣は陽だ。ザクロはそれをよく使い分けている。

「では説明してもらおうか、鬼」

 剣は一歩前に進むと、鬼にしか聞こえないような低い声で話しはじめた。

「あの娘は俺の獲物だと思っていたんだがな。ザクロの話によれば、俺が切れなかったとき、お前を寄越すつもりだとね。無用の心配というものだが、ザクロが決めたことだ」

 鬼は黙って、剣の言葉を聞いていた。
 もともと鬼は自ら喋ったりはしない男だ。多くの場合、刺客としての鬼は、口で喋るのではなく刀に語らせていた。

「しかしお前は昼、俺の邪魔をした。そして今、あの娘の周りをうろついている……。どういうことだ? もう切ったのか?」

 鬼はまだ答えなかった。

 剣はその沈黙にひるむこともなく、雑草の生えた庭にまで足を踏み入れると、猫のような足取りで徐々に鬼に近づいてくる。鬼はその足下をじっと見た。

「ザクロによれば、俺があの小娘に色情を抱くかもしれないからだ、と。は! 確かに別嬪ではあろう。俺は女が好きだ。しかしあの小娘は俺にはちと若すぎる。俺はもっと妖艶なのが好きだ。ザクロのような、な」

 この男がザクロに気を持っていることは昔から知っていた。
 だからこそ、この男はザクロに忠実だ。
 もしザクロが景を切れと剣に命令したならば、剣は景を切る。それを止められる者がいるとしたら、それは鬼以外にはありえない。

 剣はさらに歩を進めた。
 ふたりの男の間合いがゆっくりと狭まっていく。