とはいえ、静寂は鬼の心を静めはしなかった。
それどころか逆に、鬼の中に見えない嵐が吹き荒れつつあるようだった。
──あり得ない、と鬼は自身に言い聞かせなければならなかった。鬼には心がない。
昔はあったこともあるのだろう、しかし今はもう、とうの昔に失っている。
それなのに、あの甘い声が鬼の脳裏に繰り返し響いて止まなかった。
目をつぶれば、景の瞳と、凛とした横顔がまぶたの裏に張り付いたように離れない。
鬼の想像は檻から放たれた獣のように荒々しく暴れた。景の細い首におのれの唇を押し付け、彼女の芳香を吸い、むさぼるようにあの白い肢体を抱く白昼夢を見た。鬼の手は、景の細い手を握ったときの冷たい心地よさをいつまでも覚えている。
そして、景の言葉を。
視点の定まらない目で暗闇を眺めながら、鬼はすべての邪念を振り切るために神経を集中した。
どういう形であれ、景は命を狙われている。
情を移すべきではない。
ザクロはすべてを見越して鬼と剣の双方に命を託したのだろうか。そうかもしれない。鬼の柄を握る手にさらに力が入った。
深夜が近づくにつれ闇が濃くなり、風が強くなっていく。
鬼は本能に感じていた──すぐだ、と。
そして虫の音が止まった。

