太陽が完全に落ちて辺りが闇に包まれると、景はおやすみなさいと言い残して部屋へ戻った。
そして鬼は再びひとりになった。
こうして一人になり思い返してみると、景の父の反応はしごく鈍かったと、鬼は思う。
娘が刺客に狙われているかもしれないという事実に対して、驚きはしていたが、心当たりはある、というような顔をしていた。いや、表情だけではない。そもそもなぜだという疑問さえ口にしなかった。
そしておきくの存在。
鬼は昇りはじめた三日月を見上げつつ、静かに精神を研ぎすました。
すっと腰の刀を抜くと、鋭い銀の輝きが滑らかに宙を舞い、闇に光りを放つ。
この刀は、と鬼は思った。
この刀は今夜、誰を切るのだろうか。
まだこの時間に剣が来ないのは分かっていたが、鬼は景の部屋から遠ざからないことにした。できれば、景の父とおきくの様子を確かめてみたい気がしないでもなかったが、景をひとりにしたくなかったのだ。
耳を澄ますと、ざわざわと揺れる草木の音に混じって、虫の声がチリチリ、コロコロと響く。鬼はその音の癖をしっかりと記憶した。自然は鋭くも敏感で、侵入者があるとすぐに音を変える。たとえ人の耳をあざむくことができても、野生のものたちから逃げることはできないということか。
鬼は静かに時を待った。

