鬼景色


「ご一緒してもよろしいですか?」
 鬼は答えなかった。
 つまり、断りはしなかったのだ。景は赤い下駄を履くと庭へ出てきて、鬼の側まで歩いた。

「ここは暗くて湿っぽい場所なのですけど、この時間だけは少し夕日が当たるので、いつも外に出ることにしているんです。特に晩秋はとても美しいのですよ」

 景の言葉を聞いて、鬼は静かにうなづいた。
 景の瞳が夕日を映し、その白い肌が橙に照らし出され、秋の終わりの香り高い風に髪をなびかせている姿を想像した。次の晩秋、景はまだ生きているだろうか。

 いいや、多分、彼女はもう生きていないだろう。
 それが鬼に命を狙われるということだ。

 そんなことを思いながら、鬼は無意識に息を潜めていた。景はふと視線を落とし、そしてふたたび夕日に向けて顔を上げた。日に当たる景の頬が赤らんでいるように見えたのは、鬼の思い違いではないだろう。
 二人は並んで立ち、そろって夕日を見つめた。

 ──この日が落ちれば、すぐに夜がくる。

 血の匂いがほとばしるようだった。夜、鬼たちは獲物を狩る。鬼は丑三つ時を少し過ぎたころを使うことが多かったが、剣が真夜中を好むのはよく分かっている。

 つまり、早ければ今夜、景の命に決着がつく。

 どういうわけだろう、鬼は剣と戦うつもりでいた。その前に景を殺めてしまえばいいのに、鬼はまだ待っている。
 そして二人で夕日を眺めている。