あなたこそ、どこかお怪我はありませんでしたか──
そう言って景は鬼の心を覗き込んだ。ありもしない、鬼の心を。
その日の夕方、紫とも橙ともつかない優雅な色の空を背後に、鬼は屋敷の庭園の一角を歩き回っていた。
景の部屋のある一角だ。
広い屋敷の中の奥込まった場所で、ここまでは庭の手入れも行き届いていないらしく、あちこちに雑草が生い茂っている。鬼は静かに周囲を観察していた。
刺客としての鬼は、この立地を歓迎すべきだろう。
なるほど、見つけるのは容易ではないかもしれないが、一度見つけてしまえばこれほど襲いやすい在処はあまりない。
ただ、景を警護するべき者としては、鬼はこの立地を呪う。
……と当時に、少々安心もしていた。
人目に付きにくい分、心置きなく戦うことができる。これは、あくまでも鬼ほどの強さを持った者だけが感じることのできる感覚かもしれなかった。弱い剣士は他者が側にいることに安心を見いだす。──鬼は、そうではない。
まだ夏は先だが、コオロギの鳴き声が草影から響いた。
同時に、景の部屋の襖がカタカタと動いて、彼女がそっと顔を出す。鬼はじっとその動作を見守った。
「ここにいらしたのですね、鬼殿」
景の声は柔らかく、もし音に触れることができるとしたら、彼女の声は鳥の羽根のように滑らかなのだろうと想像させられるほどだった。なぜそんなことを思いつくのか、鬼には不可解だったが。
景は部屋から出てくると、雨戸の開いている縁側まで進んで微笑んだ。

