いままで黙っていた父が目を剥き、「なんだと?」と声を上げた。しかし、父以上に驚いたのは景本人だった。
「彼女を襲った暴漢は、間違いなく彼女だけを狙って刀を抜いていた。その腕といい、やり方といい、裕福そうな人間を狙っただけの通り強盗などではない。最初から彼女を殺す目的を持った玄人の仕業としか考えられぬ」
あんぐりと口を開けたままの父に、緊張した顔を見せるおきく。
景も呆然として口を開きかけたままでいた。
鬼だけがひとり冷静で、彼の声は、まるでこの場に響く唯一の音であるかのように支配的だった。鬼の鋭い視線が、景の父、そしておきくへと移る。
穏やかでない空気が四人の間に流れた。
「とにかく、中に入りなさい、景。そしてそちらは……」
なんとかそう告げた父は、鬼の顔に視線を向けて、彼をどう呼んでいいのか躊躇していた。景も、わずかながらに緊張した。たとえ景自身は鬼の名前に親しみを持っていたとしても、他の人間がこれをどう取るのかは分からない。
特に、義母のような意地の悪い人間は。
「鬼と申す」
鬼は短く名乗った。濁りのないはっきりした声で、表情も変えない。
そして、
「──偶然、この娘が襲われそうになるところに出くわした」
とだけ言い加え、ちらりと景の方へ視線を落とした。

