これが、いかにも偉そうな命令口調に聞こえてしまうのは、景の心がひねくれているからだろうか? この義母の言うこと成すことすべてに胸が痛むのは、父を取られたという嫉妬からくるのだろうか?
景は、もうずいぶん長い間苦しんできたので、痛みを意識しなくなってきていた。しかし赤の他人である鬼が隣にいる今、景はほんの少しだけ、違和感を感じた。
胸がちくりと痛む。
景が正座をしたまま襖を開けると、中には帳簿のようなものを前にした父と、それに寄り添う義母・おきくがいた。
「まぁ、お景さん、ずいぶん長くお出かけなさっていたことね」
「申し訳ありません。道中、少し、事故にあったのです」
「まあ、事故」
おきくはケタケタと笑っていた。
「それはずいぶんと不注意だったことね。それで、そちらの殿方はどなたかしら? さしずめ、あなたが着物を汚してしまったお侍さんというところかしら?」
我慢しなさい、景。
景は、そう自分に言い聞かせながら深く頭を下げたあと、隣にたたずむ鬼を見上げた。彼は立ったままで、正座していない。まだ実際に聞いた訳ではないが、鬼は刀を携帯しているのだから、武家の出だろう。商人の景たちに敬意を見せる必要はないのだ。
景が事情を説明しようと口を開きかけた、そのとき、
「お前たちの娘は、何者かに命を狙われている可能性がある」
と、鬼が横から口を挟んだ。

