ふたりが屋敷にたどり着いたとき、時刻はまだ昼前で、門の前には何人かの使いの者たちが忙しくしているところだった。ひとりが、鬼と景を見とめると頭を下げる。
「お父さまは屋敷にいらっしゃいますか?」
景が聞くと、使いのひとりはええ、と答え、うなづいて門の先を視線で示した。景は礼を言い、鬼と一緒に門をくぐった。いつもこの門をくぐるときは心が深く陰るのに、今日はそれがない。
隣に鬼がいるという、ただそれだけのことが、景に強さを与えてくれているのだろうか。
名前以外ろくに知らない彼が、こうして景を助けてくれているのは皮肉なことだ。景の父はなにもできないというのに。
「景です、お父さま。ただいま帰りました」
玄関から入り、庭に面した廊下を静かに歩き、父がいるはずの間にたどり着いた景は、閉じられた襖の前で正座をしてそう告げた。
答えてくれるのが父でありますように。
義母では、ありませんように。
景は重い気持ちでそう祈ったが、聞こえてきたのは甲高い女の声だった。
「入りなさいな」

