なぜかその考えは、鬼の心臓のあたりのどこか深いところを、ぐっと鷲掴みにして痛みを与えた……この少女には近づかない方がいいのかもしれない。このままひと思いに殺してしまうべきなのかもしれない。
景は、鬼の沈黙をなにかの批判ととったのか、緊張した顔を見せた。
「父は家具の商人をしています。忙しい人で……ごめんなさい、本来なら、あなたを煩わせるべきではありませんね」
家具。
ケイ。
鬼はさらに低いうなり声を漏らしたが、今度は景には聞こえなかったようだ。
「屋敷についたら、あなたにお礼金をお渡しします。父なら出してくれるはずです。その後は、もし必要なら、警護の者を雇ってくれるでしょう。これ以上あなたにご迷惑はおかけしませんから、今だけお許しください」
今だけ。
どれだけ自身の言葉が的を射ているか、景は気付いていないだろう。そう、景にはもう今だけしかない。その今さえも、鬼の気まぐれによって存在するだけなのだ。
鬼はこれからこの少女を殺す。
なぜか、剣にその役を渡すわけにはいかないと、鬼は決心していた。そして来るべきそのときは、できるだけ静かに、痛みのないようにしてやるべきだと、鬼は誓った。
「今だけだ」
鬼は呟いていた。
そして安心したように景がうなづくのを見て、鬼は無意識に強く拳を握っていた。

