ふたたび大通りに戻ったふたりは、今度こそ少女の屋敷に向かって歩きはじめた。
「姫」
と、鬼は少女に問うた。
少女はほんの少し頬を赤らめ、はにかんだ微笑みを見せた。
「千代が勝手にそう呼ぶだけです。うちは武家ではありませんし、本来ならそう呼ばれるべきではありません。ただ、千代の呼び方がいつのまにか広まって、今でもそう呼んでくる人がいます」
鬼は少女を見下ろしながら、わずかにうなづいた。
「わたしの名前は景です。それで、景姫、と時々呼ばれます。町人たちは特にそうです」
そして、少女は問い返すように鬼を見上げた。自分が名乗ったことで、相手も同じように名を教えてくれるだろうと期待しているのが、嫌でも分かる。普通に考えれば、当然そうするべきなのだ。
「俺は、鬼と呼ばれている」
鬼が平淡な声でそう告げると、景は瞳をまたたいた。
「オニ、ですか」
「ああ。俺を拾った女がそう名付けた」
景は少し考え込むように、歩きながら下を向いた。鬼には景の考えていることが手に取るように分かった。誰でも同じだ。なんという汚い名を付けられたのかと同情し、同時に、そんな名前を与えられた鬼に軽蔑を向ける。景だって同じだろう。
「なぜ、鬼、ですか?」
「なぜ? さあ。俺のような汚いガキを呼ぶのにちょうどよかったからだろう」
またはザクロは、少年だった鬼が、ほんものの『鬼』となることを期待したのだ。心のない残忍な殺人鬼。そしてそれは現実となった。

