ふたりを遠巻きに囲んでいる人間たちが、いよいよ声を掛けたそうに近づいてきているのを見て、鬼は少女をうながした。しかし、当然すぐについてくると思っていた少女が、足を止めて首を振った。
「でも……申し訳ありません。その前にこの包みを届けないといけないのです」
「後にしろ」
鬼は言い切った。
鬼は、少女が町人と話しながら、ずいぶんとゆっくり歩いていたのを知っている。急ぎの用事には見えなかった。
「でも、ここからすぐ近くです。軒先がもう見えます。今日中に渡したいのです」
いかにもか弱そうな外観とは異なる、少女の意外な頑固さに、鬼は多少ならずとも驚いた。声はまだ緊張を含んでいるものの、この少女は、しっかりとした賢そうな喋り方をする。
しかし、賢い選択をしているとは思えなかった。
「お前はたった今しがた、暴漢に襲われそうになったんだ。外をほっつき回っていればそれだけ、また襲われる可能性が増える。届け物なら、家に帰ったあと使いを出させればいいだろう」
少女はきゅっと口を結んで、鬼を見つめる。
「でも……それはできないんです」
急にしぼんでしまったように肩をすぼめ、風呂敷包みを胸に押し当てる少女を見て、鬼はいぶかしがった。少女の家は裕福な商家だ。ザクロからそう聞いていたし、本人もたった今、それをほのめかした。少女の暗殺依頼の理由も、まだ確信はなかったが、その富が原因ではないかと鬼は踏んでいる。
使い丁稚の一人や二人、いくらでもだせるだろうに。
「相手は情人か?」
「いいえ! ま、まさか」
秘密の恋人に届け物をする気かと聞かれ、少女は急に真っ赤になり、懸命に首を振った。
「昔、わたしの乳母だった方です。今は腰を悪くされて、身寄りも無く……わたしは、時々彼女のお世話をしたり、こうして食べ物を届けたりしているんです」

