「いいえ、わたし……今、なにが起ったのか……よく分からないのですけれど、あなたに命を助けていただいたことだけは分かります。なにもお返ししないわけには」
握られた少女の手は、緊張のためか冷たかった。しかし、心地いい冷たさだ。
鬼の胸に清涼な風のようなものが吹きあれた。どういうわけか、もう少しこの手に触れていたいような気分にさせられる、そんな冷たさだった。
少女は鬼にすがり続ける。
「わたしの父は、大きな商売をしています。武家ではありませんが、それなりの蓄えがあります。どうか、どうか、お礼をさせてください」
そのとき、鬼はどうして少女が必死ですがってくるのか、理由が分かった。
少女の手は震えている。顔は蒼白で、肩までが緊張で小刻みに震えていた。その瞳は瞳孔までが大きく開かれていて、相当な恐怖を感じていたのだと、鬼に伝えていた。彼女は一人になりたくないのだろう。
鬼は一度、まばたきをした。
「礼はいらぬ。しかし、家まで送ろう」
すると少女の目は安堵と喜びに輝き、強ばっていた肩がゆっくりと下がった。
「ありがとうございます」
鬼はしばらく少女の顔を見下ろしたのち、彼女の手をすっと離して、地面に落ちていた風呂敷包みを屈んで持ち上げた。ぽんと包みを手に戻され、少女はさらに安心したようだった。
「家はどっちだ」
答えは知っていたが、鬼は少女に質問した。ザクロは暗殺に必要な情報をほとんど与えてくれていた……ただ、肝心の『なぜ』殺す必要があるのかという部分だけは、口を割らなかったが。
「城下の中央を少し西に行ったところです。ここから遠くありません。歩いてきたんです」
ああ、知っている、と、鬼は内心うなづいた。
「では行こう」

