高天(たかあまの)(みかど)が「前も言ったとおり、自分は龍帝の能力で人の害意がわかるのだ」と話すと、朱華が目を瞠る。

しかしまだ踏ん切りがつかないのか、躊躇いがちに言った。

「わたくしは名家出身ではない、ただの平民です。龍帝の妃となる方は、政治的な後ろ盾が必要なのでは」
「家柄など些末なことだ。私は愛する朱華と、この命が尽きるまで共にいたい。そなただけを大切にし、側室は一切持たないと約束しよう」

彼女の手を取り、その指先を口元に持っていきながら、高天帝は言葉を続ける。

「だからどうか、私の求婚を受け入れてくれ。この先の人生を共に歩んでほしいんだ」

本来なら、龍帝の地位にある者がここまで下手(したて)に出る必要はない。

妃にと望まれた者が拒否するなどもってのほかで、問答無用で婚姻が決まるはずだ。
しかし高天帝は、朱華の心が欲しかった。強制ではなく、彼女自身の意思で自分の傍にいてほしい。

するとそんな気持ちが伝わったのか、朱華の目から再び涙が零れ落ちる。彼女が深呼吸し、小さな声で答えた。

「身に余るお言葉です。わたくしでよろしければ……どうか幾久しく、お願いいたします」