朱華の手にそっと頬を擦り寄せたあと、高天帝は再び身体を起こして辺りを睥睨する。
そしてその場にいる全員に向かって告げた。
「《かつて私は確かに病んでいたが、今はすっかり平癒し、このとおり真の姿に戻れるほどになった。私の病にかこつけた税金の搾取はあってはならぬことであり、私腹を肥やす目的で民を虐げた者たちには厳罰を下す》」
先ほど高天帝に名指しされた官僚たちが、真っ青な顔で平伏する。
一方、巨大な龍が相手では勝ち目がないと考えたのか、刺客たちが武器を捨てて次々と投降していて、それを武衛司が押さえ込んでいた。
それを見つめつつ、高天帝は言葉を続ける。
「《また、この世の栄華を味わいたいという浅はかな目的で帝位の簒奪を画策する者、そしてそれを担ぎ上げようとする者たちについても看過できない。国家反逆罪と見なし、その処遇に一切の手心を加える気はないゆえ、よく肝に銘じておけ》」
「待って、お兄さま。わたくしはこの者たちに騙されただけなの。それに母上の不貞を知らなかったからこそ、自分も帝位に就けると思ったのよ。だから……っ」
陽羽が必死に言い訳をしようとするものの、高天帝はそれを黙殺する。
そして華綾の采女たちが集まる席に視線を向け、再び口を開いた。
「《そして私は、朱華を唯一の妃として迎えることをここに宣言する。それと同時に、龍帝の花嫁候補という位置づけでの華綾の采女制度に関しては完全に撤廃するつもりだ。現在在籍している者たちの処遇に関しては、追って沙汰する》」
人々から反対の声は一切上がらず、誰もが龍帝の威光に打たれたように平伏している。
高天帝はふっと身体の力を抜き、深呼吸をすると人間の姿に戻った。すると烈真が脱ぎ捨てられた袞衣を拾って着せかけてくれ、高天帝はその前を合わせながら朱華に向き直る。
「私の気持ちは、先ほど言ったとおりだ。華綾の采女制度を廃止し、そなたを唯一の妃として迎えたい。そして私の伴侶として、この先ずっと傍にいてほしい」
「……千黎さま」
「朱華の母御に関しては、武衛監に命じてすぐに身柄を保護させる。適切な治療をしたあとに必ず会わせるゆえ、心配するな」
朱華の目が潤み、涙がひとしずく零れ落ちて、彼女が礼を述べる。
「ありがとうございます。ですが……先ほど申し上げたように、わたくしは千黎さまを暗殺する目的で皇宮に出仕いたしました。そのような大罪人が龍帝陛下の妃にふさわしくないのは、わたくし自身が一番よくわかっております」
「そなたは風峯に母を人質にされ、奴の要求を受け入れざるを得なかったのだろう。そして私に対し、一度も殺意を向けなかった。贖うべき罪はひとつもない」
そしてその場にいる全員に向かって告げた。
「《かつて私は確かに病んでいたが、今はすっかり平癒し、このとおり真の姿に戻れるほどになった。私の病にかこつけた税金の搾取はあってはならぬことであり、私腹を肥やす目的で民を虐げた者たちには厳罰を下す》」
先ほど高天帝に名指しされた官僚たちが、真っ青な顔で平伏する。
一方、巨大な龍が相手では勝ち目がないと考えたのか、刺客たちが武器を捨てて次々と投降していて、それを武衛司が押さえ込んでいた。
それを見つめつつ、高天帝は言葉を続ける。
「《また、この世の栄華を味わいたいという浅はかな目的で帝位の簒奪を画策する者、そしてそれを担ぎ上げようとする者たちについても看過できない。国家反逆罪と見なし、その処遇に一切の手心を加える気はないゆえ、よく肝に銘じておけ》」
「待って、お兄さま。わたくしはこの者たちに騙されただけなの。それに母上の不貞を知らなかったからこそ、自分も帝位に就けると思ったのよ。だから……っ」
陽羽が必死に言い訳をしようとするものの、高天帝はそれを黙殺する。
そして華綾の采女たちが集まる席に視線を向け、再び口を開いた。
「《そして私は、朱華を唯一の妃として迎えることをここに宣言する。それと同時に、龍帝の花嫁候補という位置づけでの華綾の采女制度に関しては完全に撤廃するつもりだ。現在在籍している者たちの処遇に関しては、追って沙汰する》」
人々から反対の声は一切上がらず、誰もが龍帝の威光に打たれたように平伏している。
高天帝はふっと身体の力を抜き、深呼吸をすると人間の姿に戻った。すると烈真が脱ぎ捨てられた袞衣を拾って着せかけてくれ、高天帝はその前を合わせながら朱華に向き直る。
「私の気持ちは、先ほど言ったとおりだ。華綾の采女制度を廃止し、そなたを唯一の妃として迎えたい。そして私の伴侶として、この先ずっと傍にいてほしい」
「……千黎さま」
「朱華の母御に関しては、武衛監に命じてすぐに身柄を保護させる。適切な治療をしたあとに必ず会わせるゆえ、心配するな」
朱華の目が潤み、涙がひとしずく零れ落ちて、彼女が礼を述べる。
「ありがとうございます。ですが……先ほど申し上げたように、わたくしは千黎さまを暗殺する目的で皇宮に出仕いたしました。そのような大罪人が龍帝陛下の妃にふさわしくないのは、わたくし自身が一番よくわかっております」
「そなたは風峯に母を人質にされ、奴の要求を受け入れざるを得なかったのだろう。そして私に対し、一度も殺意を向けなかった。贖うべき罪はひとつもない」
