戦闘していた刺客と(ぶえ)衛司(いのつかさ)たちが動きを止めて呆然とこちらを見上げ、人々が畏怖の表情を浮かべる。

一人の文官が震えながら跪拝(きはい)したのを皮切りに、そこにいた者たちが雪崩を打って平伏していく様を、高天(たかあまの)(みかど)は真紅の瞳で見つめた。

そして視線を巡らせ、陽羽(ひのは)を見下ろすと、彼女が蒼白な顔でその場にへたり込む。

「……ぁ……」

震えながらこちらを見上げる姿には、先ほどの威勢は微塵もない。

その顔には恐怖と混乱がにじんでおり、あまりの光景に言葉が出ないようだった。高天帝は、そんな陽羽に思念で呼びかける。

「《なぜ驚いている。我が一族が龍帝と呼ばれる所以(ゆえん)を忘れたか》」
「…………」
「《血筋正しき者ならば、このように龍の姿になれるはずだ。自分こそが帝位を継ぐにふさわしいと豪語するなら、そなたもここで変化して見せよ》」
「……っ、無理よ……」

彼女が涙目で首を横に振り、そのすぐ傍で風峯が地面に頭を擦りつけて平伏する。

「龍帝陛下、お許しください。すべての罪を認めますので、どうか、どうか命だけは……っ」

そのとき人々がどよめき、高天帝がそちらに視線を向けると、先ほど絶命したはずの朱華が烈真の腕の中で意識を取り戻していた。

身を起こした彼女は血に濡れた自身の口元を袖で拭い、こちらを見上げてつぶやく。

(ちさ)()さま……? もしかして、真のお姿に戻られたのですか?」

すると群衆の中から「奇跡だ」という声が上がり、興奮しながら口々に言う。

「龍帝陛下の血を与えていただいたことで、あの采女が息を吹き返したんだ」
「即死するほどの猛毒を解毒し、一度死んだ命を蘇生させるなど、まさしく奇跡の力ではないか」

ふらつきながら立ち上がった朱華がこちらに歩み寄り、両手を差し伸べてくる。

彼女の表情に恐れは一切なく、高天帝は長大な身体をくねらせながらゆっくりと頭を下げると、朱華に顔を寄せて説明した。

「《朱華が〝()(きょく)(そう)〟を飲み込んで絶命した直後、すぐに私の血を与えたんだ。龍の血は古くは〝(きゅう)天龍(てんりゅう)(ずい)〟と呼ばれる万能薬で、高い治癒力があるため、上手くいけば毒を浄化できると考えた》」
「そうだったのですね。この神々しいお姿は……」
「《病が治り、体内の気脈が整ったことで本来の姿に戻ることができた。そなたという伴侶を得たおかげだ》」