どうやら陽羽(ひのは)は、龍帝の仕事を子をもうけることだけだと考えているらしい。

(世継ぎを生みさえすれば、面倒な政治は官僚に任せて自分は享楽的に過ごせると思っているのか? ……愚かなことだ)

一部の官僚が彼女を支持する理由は、自分たちが上手く操ることができる器だからに他ならない。

陽羽が即位したあとは今まで以上に私腹を肥やし、国庫を蕩尽して、やがて国を傾けるのは目に見えている。

妹である彼女の行動を、高天帝はこの数年間相当目こぼししてきた。だが、これ以上は駄目だ。私利私欲のために兄の暗殺を画策し、朱華やその母親を巻き込んで彼女を自死するまで追い詰めたことはどうしても許しがたく、陽羽を見つめた高天帝は今まで秘めていた事実を告げた。

「陽羽、お前は私と同じ母を持つが、龍帝の血筋ではない。――ただの人間だ」
「えっ?」
「かつて華綾の采女として皇極(こうきょく)殿(でん)に出仕し、父上の妃となった母上は私を生んだあと、十年近くお渡りがないことに悩んでいた。そして自身の護衛官と姦通し、お前を生んだんだ。父上は生まれた娘が我が子ではないとわかっていたものの、世継ぎをもうけるためだけに手を付けて妃を捨て置いた自身に責任があると考え、母上の不貞を咎めなかった」

彼女が呆然と目を見開き、絶句する。

皇妹である星凛(せいりん)(きみ)には龍帝の血は流れておらず、玉座に座る資格はない――そんな高天帝の発言は人々にとって衝撃だったようで、居並ぶ者たちがざわめき始めた。

陽羽が目に見えて動揺しながら、口を開く。

「う、嘘よ。お兄さまはわたくしの名誉を傷つけるために、そんなことを言ってるんでしょう。わたくしはずっと龍帝である父上の娘として生きてきたのよ、それなのに――」
「その父上が、今際(いまわ)の際に私に打ち明けたのだ。母上は罪の意識に耐えかねて護衛官と共に皇宮から出奔し、死んだこととされていた。何も知らないそなたを不憫に思った父上は、ご自身の実子ではないという事実は伝えなくてよいと仰せになり、身罷(みまか)られた」

すると彼女がカッと頬に朱をにじませ、激しい口調で言った。

「そんな話……絶対に信じないわ。公の場でわたくしを侮辱するだなんて、たとえお兄さまでも許さないわよ。役立たずのお兄さまには退位していただいて、わたくしが新たな龍帝として即位する。もし文句を言う者がいたら、片っ端から投獄して処刑するわ。血筋正しい皇女であるわたくしには、その権利があるのだから」