――高天(たかあまの)(みかど)は語った。

地方の行政官が龍帝の不調を声高に喧伝し、治療に多額の国庫負担が必要であるのを口実に、不当に税金を釣り上げていたこと。

実際に国に納める金額は変わらず、そうした事実が上に伝わらないように情報が操作されていたこと。心ある地方官吏(かんり)が不正の事実を皇宮に報告しようとしたものの、彼らは全員抹殺されていたこと――。

「この事実を調べてくれたのは、評定官(ひょうじょうかん)真砂(まさご)久世(くぜ)だ。地方行政官を抱き込んでせしめた裏金の大半は風峯や兵部(ひょうぶ)(きょう)大伴(おおとも)式部(しきぶ)(きょう)三条(さんじょう)の懐に入り、残りは陽羽(ひのは)に上納されていたことがわかっている。彼らの部下の官吏たちで不正を知っている者は複数いたようだが、風峯らに『体調が思わしくない龍帝陛下に報告し、過度のご負担をかけるべきではない』『余計なことを言えば、そなたらの身の安全は保証できない』と言いくるめられ、都合の悪い事実を隠していた」

まさかそこまで調べられているとは思わなかったのか、名指しされた官僚たちは揃って顔色を失くしている。

高天帝は陽羽を見つめ、言葉を続けた。

「陽羽、華美な生活を好むそなたに、風峯たちは上納金やきらびやかな金銀玉珠を手土産に近づいてきたのだろう。奢侈(しゃし)を私に咎められて面白くない気持ちでいたところで、『お世継ぎをもうけない兄君より、あなたさまのほうが龍帝の地位にふさわしい』とでも言われてまんまと取り込まれたのではないか? まだ年若いそなたの浅慮を責めるのは酷かもしれないが、これまで踏みとどまる機会は充分にあったはずだ。それなのに皇族の地位を利用し、自ら禁書を持ち出して私を暗殺するための猛毒を作らせたのだから、無関係であるという理屈は通らない」

すると彼女が顔を歪め、強気な眼差しで言う。

「だったら言わせていただくけれど、お兄さまは今までご自身の義務を放棄してきたのではなくて? 妃も娶らない、世継ぎとなる子も作らないまま病んでいるお兄さまは、龍帝として失格よ」
「…………」
「国の安寧を考えるなら、複数の子をもうけて民の不安を払拭するのが国家元首としての務めではないかしら。同じ血筋なら、義務を果たさないお兄さまではなくわたくしが玉座に座ってもいいはずよ。多くの夫を持ち、何人でも子を生んで皇統をしっかり受け継がせるつもりでいるし、そんなわたくしのほうが龍帝にふさわしいと支持してくれる者がたくさんいるんだから」