問いかけられた彼が「それは……」と口ごもり、高天帝はゆっくりと立ち上がりながら告げる。

「これは初めて公にすることだが、私は自身に向けられる害意を感知できる」
「えっ」
「代々の龍帝に備わっている、特性だ。官位を得たそなたらが少しずつ不満を募らせ、それがやがて明確な敵意に変わっていくのを、私は朝議で顔を合わせるたびに如実に感じていた。一方で朱華からは、出会った当初からそうしたものを一切感じなかったのだ。だからこそ私は、素性を偽って出仕した者だと知ったあとも彼女を信頼した」

謁見や朝議の際に笑顔で媚びへつらい、こちらに恭順の意を示しつつも実際は害意を抱いている者たちは、ひどく醜悪だった。

彼らを見ているうちに人間の汚さを思い知り、厭世的な気持ちが強くなっていた高天(たかあまの)(みかど)に生きる気力を取り戻させたのが、他ならぬ朱華だったのだ。

そう考えながら視線を巡らせた高天帝は、陽羽(ひのは)を見つめて言う。

「そなたも同様だ、陽羽。我儘(わがまま)で贅沢を好むものの、かつてのそなたは子どもっぽく無邪気で、害がなかった。しかし一年ほど前から急激にこちらに敵意を募らせ始めたことに、私は気づいていた」
「…………」
「風峯を始めとする面々が新しい龍帝を擁立しようと考えた場合、該当する候補はそなたしかいない。先ほどの朱華の話は私がかねてから抱いていた疑惑の信憑性を高めるものであり、そなたが彼女に私を殺すための〝()(きょく)(そう)〟を手渡したのも事実なんだろう」

すると彼女が顔を引き攣らせ、虚勢を張るように言う。

「疑惑とおっしゃるけれど、それって一体どういうことかしら。お兄さまはお身体の不調で塞ぎ込まれるあまり、被害妄想を強くされているように見えるわ」
「実は一年ほど前から、信頼する者を使って官僚たちの動きについて調べていた。私の廃位を望むのは国を思いのままに牛耳りたいのはもちろん、彼らにとって露見しては都合の悪いことがあるからだろうと考えたからだ。その結果、地方からの皇宮への報告書に多数の改竄があることが判明した」