朱華が〝()(きょく)(そう)〟を口の中に入れ、ゴクリと嚥下する。

思わず玉座から立ち上がった高天(たかあまの)(みかど)は、(きざはし)を降りて彼女に歩み寄ろうとした。すると朱華が胸元を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。

「うぅ……っ」

彼女が口から鮮血を吐き、固唾を呑んで見守っていた者たちからどよめきと悲鳴が上がった。
朱華に歩み寄った高天帝は膝をつき、前のめりにうずくまる彼女の身体を抱き起こして言う。

「何ということをする。今すぐ飲み込んだものを吐くんだ」
「……っ……」

朱華が弱々しく首を振り、血にまみれた手でこちらの袞衣(こんい)の袖をつかんだ。

「よいのです。わたくしは……(ちさ)()さまの暗殺を目論んで近づいた大罪人、万死に値します。ですがどうか、……母のことだけは……」
「そなたが私に害意を抱いていないことは、わかっていた。だから死ぬな」

すると朱華が目を潤ませ、何かを言おうとして口を動かしたものの、声が出なかった。

口から大量の血がゴボリと溢れ、彼女の瞳が急速に光を失っていく。身体がぐったりと脱力し、袖をつかんでいた手が力なく地面に落ちて、高天帝は呆然として腕の中の朱華を見つめた。

「――……」

彼女が絶命したのだと悟った瞬間、高天帝を襲ったのは目の前が真っ暗になるような絶望だった。

自分にとっての朱華は、温かな陽だまりのような存在だった。一緒にいると気持ちが安らぎ、豊かな表情や可憐な笑顔に癒される。

彼女が椿(つば)()の生まれ変わりだと気づいたとき、見た目や性格が違えどまた一緒に生きていけることに大きな喜びを感じた。

それはこの数年身体を蝕んでいた病が治癒するほどのものだったが、朱華の命は立った今目の前でこの手をすり抜けて失われてしまった。

彼女の血に濡れた口元を袞衣の袖で拭ってやった高天帝は、腰に革帯で結わえられている太刀に手を掛ける。

そして朱華の身体を地面に横たえ、おもむろに鞘から太刀を抜くと、研ぎ澄まされた刃が篝火(かがりび)の明かりを受けてキラリと光った。

それを見た烈真が、顔色を変えて制止しようとする。

「陛下、おやめください。一体何を……!」

構わず刀で自分の腕に傷をつけると、真っ赤な血がみるみる溢れて滴り、高天帝はそれを朱華の口元に持っていく。

しばらく彼女の口腔に自身の血を注いでいたところ、風峯がおもねる口調で言った。

「り、龍帝陛下、その者はわたくしや星凛(せいりん)(きみ)を陥れるような発言をしておりましたが、根拠のない讒言でございます。おそらくは華綾の采女たちの中に馴染めず、心神耗弱の状態でこのような事態を起こしたのでしょう。ですから……」
「――朱華の話には、一貫して筋が通っていた。私は彼女からあらかじめ風峯の実子ではないことを聞かされていたが、そなたはなぜその事実を隠して出仕させた?」