――朱華は説明した。

高級官僚や富豪たちはこぞって自分たちの娘を華綾の采女として龍帝の元に出仕させているものの、風峯にはそうして差し出す娘がいないこと。

龍帝の妃となれれば一族の栄達が望めるため、彼が自分に「養女にならないか」と持ちかけてきたこと――。

だが本当の目的が龍帝の暗殺であることや、「承諾しなければ殺す」と言われた事実については、どうしても話せなかった。

それを聞いた桔梗は眉を上げ、困惑した顔でこちらを見る。

「風峯さまとうちは、あまりに家格が違いすぎるわ。皇宮に出仕している采女の方々は皆家柄に優れたご令嬢でしょうし、朱華が行っても浮いてしまうのではないかしら」
「明日からあちらのお屋敷に住んで、半年を目途に華綾の采女にふさわしい所作や知識を身に着けるように言われたの。その代わり、お母さんには新しい住まいと身の周りのお世話をする女中さんを用意して、お医者さまにも診せてくれるって」

朱華は自身が風峯の養女になることで得られる利点を並べ、ことさら明るく告げる。

「だからわたし、風峯さまのお話を受けようと思ってる。半年間頑張って教養を身に着けて、華綾の采女として出仕しようって」
「朱華、待ってちょうだい」

慌てて椀を置いた桔梗が、こちらに身を乗り出しながら言う。

「あなた、私をお医者さまに診せるためにそのお話を受けようとしているの? だったら賛成できないわ」
「……お母さん」
「上流階級の人たちは、私たちのような庶民とは育ちも感覚も違うの。そんなところにのこのこ入っていっても、周囲に馴染めずに苦しむだけよ。ましてや華綾の采女は、他に何人もいるんでしょう? あなたが龍帝陛下のお目に留まる可能性は、限りなく低いんじゃないかしら」