やがて申の刻になると、皇極(こうきょく)殿(でん)前庭の観覧席には大勢の人々が集まっていた。

多くの篝火(かがりび)が焚かれ、広場の大きな祭壇には米や酒、塩、魚、野菜や果物といった神饌(しんせん)が並んでいて、中央には神鏡が置かれている。

両脇には白衣(びゃくえ)に冠姿の祝部(ほうりべ)たちがズラリと座していて、緋袴の巫女の姿も数多くあった。そこに白い綾絹に金糸で鳳凰と瑞雲が刺繍された斎服を身に纏い、前と後ろに(りゅう)と呼ばれる玉飾りがついた冕冠(べんかん)を被って、翡翠の飾りを首に掛けた高天(たかあまの)(みかど)が現れ、それまでざわめいていた人々がしんと静まり返る。

彼は龍帝にふさわしい威厳があり、銀糸のごとき髪と紅眼、白装束という姿に神聖さが漂っていて、観覧席にいた朱華は思わず見惚れた。

(ちさ)()さま、本当にご立派なお姿。やはりあの方は、この国にとってかけがえのない方なのだわ)

観覧席の最前列には身分の高い者が座っており、そこには皇族である陽羽(ひのは)を筆頭に閣僚たちの姿がある。

少しずつ日が暮れていく時間帯、荘厳な雰囲気の中で儀式が始まった。年配の巫女が天承台(てんしょうだい)と呼ばれる木製の台に青い稲穂を載せて高天帝の傍まで進み、彼がそれを天に捧げる。

祝部たちが一斉に祝詞を奏上して、朗々とした声が辺りに響き渡った。一連の儀式が終わったあと、黄金色の稲穂を模した衣裳を身に纏った巫女たちが舞を奉納し、参加者たちが川に移動して燈籠を流す。

その頃には空がだいぶ暗くなっていて、ぼんやりと光る無数の燈籠が川を流れていく様は幻想的で美しかった。

(きれい。……まるで千黎さまと一緒に見た蛍の光みたい)

燈籠にはそれぞれが願い事を書いていて、朱華は高天帝に言ったとおり彼の御代を言祝(ことほ)ぐ文言を書いた。

祝部に火を灯してもらって水に浮かべると、それはゆらゆらと揺れながら流れていき、ときおり他の燈籠にぶつかるものの沈むことなく遠ざかっていく。

見上げた空は藍色を濃くしていて、星がきらめいていた。吹き抜ける風は幾分ひんやりしていて、季節が少しずつ秋に向かっているのを感じる。

(白桜国は、本当に美しいところだわ。春は国名にふさわしくたくさんの桜が咲き、夏は暑くても空が澄んでいて爽やかで、秋にはたくさんの実りがある。冬に真っ白な雪が降り積もる風景も、寒いけどきれいだし)