朱華は驚き、彼女を見る。
萩音も祢音の素性を知らなかったのか、ひどく動揺した様子で言った。
「拘束って、あなた、わたくしを捕まえるつもりなの」
「萩音さまが愚痴をこぼす体で風花を始めとする采女たちを煽動し、朱華に嫌がらせをするところまでは黙って見ておりました。とはいえわたくしの目の前でそうした行動を取った者は、厳しく叱責いたしましたが。あなたが日に日に朱華への鬱屈を募らせているのは傍にいて肌で感じており、先ほど皇極殿の外に彼女を連れ出すのを目撃したとき、危険だと判断したのです。そのため、秘密裏に後をつけさせていただきました」
彼女は萩音の手から小刀を取り上げながら、言葉を続けた。
「朱華は龍帝陛下のご寵愛を受けるただ一人の存在、何人たりとも危害を与えることは許されません。萩音さまの行動は内衛府に報告し、詮議を受けていただくことになります」
祢音の後ろから数人の武衛司が現れ、萩音を拘束する。
彼女が真っ青な顔で身をよじった。
「放しなさい。わたくしは陛下のお傍近くに仕える尚侍、この身に勝手に触れることは許しませんよ」
だが男の力で抵抗を押さえ込むことはたやすく、萩音が引きずるように連行されていく。
祢音がこちらに向き直って問いかけてきた。
「朱華、怪我はありませんか」
「大丈夫です。あの、萩音さまはこのあとどうなるのでしょう」
朱華の質問に対し、彼女が淡々とした口調で答える。
「萩音さまは華綾の采女の筆頭である尚侍の地位にありますが、私怨で下の者を殺傷する権利は持ち合わせておりません。おそらく今後は位を剥奪され、処罰されることになるでしょうね。もちろん今日の祭祀や宴にも参加はできません」
祢音はそう断言し、言葉を続けた。
「わたくしはあの方に代わって采女たちの采配をするため、皇極殿に戻らなければなりません。あなたはこのあとどうしますか? もし心労が大きいなら、翠霞宮で休んでいてもいいのですが」
それを聞いた朱華は、〝無極霜〟の包みがしまわれた胸元をぎゅっと握りしめる。
自分は今日、何としても大勢の人間が集まる宴の場に行かなければならない。そう考えながら顔を上げ、彼女を見つめて言った。
「大丈夫です。わたくしもお勤めに戻ってよろしいでしょうか」
「あなたがそう言うのなら、戻って構いません。ただし今の衣裳は土で汚れていますから、着替えることをお勧めします」
「はい。お気遣いありがとうございます」
萩音も祢音の素性を知らなかったのか、ひどく動揺した様子で言った。
「拘束って、あなた、わたくしを捕まえるつもりなの」
「萩音さまが愚痴をこぼす体で風花を始めとする采女たちを煽動し、朱華に嫌がらせをするところまでは黙って見ておりました。とはいえわたくしの目の前でそうした行動を取った者は、厳しく叱責いたしましたが。あなたが日に日に朱華への鬱屈を募らせているのは傍にいて肌で感じており、先ほど皇極殿の外に彼女を連れ出すのを目撃したとき、危険だと判断したのです。そのため、秘密裏に後をつけさせていただきました」
彼女は萩音の手から小刀を取り上げながら、言葉を続けた。
「朱華は龍帝陛下のご寵愛を受けるただ一人の存在、何人たりとも危害を与えることは許されません。萩音さまの行動は内衛府に報告し、詮議を受けていただくことになります」
祢音の後ろから数人の武衛司が現れ、萩音を拘束する。
彼女が真っ青な顔で身をよじった。
「放しなさい。わたくしは陛下のお傍近くに仕える尚侍、この身に勝手に触れることは許しませんよ」
だが男の力で抵抗を押さえ込むことはたやすく、萩音が引きずるように連行されていく。
祢音がこちらに向き直って問いかけてきた。
「朱華、怪我はありませんか」
「大丈夫です。あの、萩音さまはこのあとどうなるのでしょう」
朱華の質問に対し、彼女が淡々とした口調で答える。
「萩音さまは華綾の采女の筆頭である尚侍の地位にありますが、私怨で下の者を殺傷する権利は持ち合わせておりません。おそらく今後は位を剥奪され、処罰されることになるでしょうね。もちろん今日の祭祀や宴にも参加はできません」
祢音はそう断言し、言葉を続けた。
「わたくしはあの方に代わって采女たちの采配をするため、皇極殿に戻らなければなりません。あなたはこのあとどうしますか? もし心労が大きいなら、翠霞宮で休んでいてもいいのですが」
それを聞いた朱華は、〝無極霜〟の包みがしまわれた胸元をぎゅっと握りしめる。
自分は今日、何としても大勢の人間が集まる宴の場に行かなければならない。そう考えながら顔を上げ、彼女を見つめて言った。
「大丈夫です。わたくしもお勤めに戻ってよろしいでしょうか」
「あなたがそう言うのなら、戻って構いません。ただし今の衣裳は土で汚れていますから、着替えることをお勧めします」
「はい。お気遣いありがとうございます」
