それを聞いた高天帝は、小さく息をついて応える。
「そうか。私は自分が誰を寵愛するかに関しては、人の意見を求めていない。そなたのところに来る官僚たちにも、そう申し伝えるがよかろう」
「あら、妃を迎えて世継ぎをお作りになるのは、龍帝の務めでしょう? あれだけたくさんの美しい采女がいるんですもの、何人でもお迎えになるといいんだわ」
「聞こえなかったか、陽羽。――口を出すなと言っているんだ」
静かだが有無を言わせない口調でそう言われた陽羽が、ふと口をつぐむ。
彼女はすぐに気を取り直し、素直に謝罪した。
「そうよね、わたくしが軽々に口を出していいことではなかったわ。申し訳ありません、お兄さま」
「…………」
「ところで今日こうして伺ったのは、お兄さまにご提案があったからなの。瑞穂の祭祀のあとの宴で、わたくしが推薦する楽師たちに演奏を披露させていただけないかしら」
「楽師?」
高天帝が問い返すと、陽羽が頷いて説明する。
「わたくし、さまざまな楽の音を聴くのが好きで、国内外から優れた楽師を集めているの。いずれも驚くような腕を持つ者ばかりだから、宴に花を添えることができると思うわ」
彼女の申し出は、高天帝にとって少々意外だった。
だが先ほどの葛城との打ち合わせでは既に流れは決まっていて、その内容を脳裏に思い浮かべつつ答える。
「宰監いわく、宴の楽の音に関しては雅楽長と話し合い、どのような楽曲にするかや楽師の人数をあらかじめ取り決めているそうだ。今の段階では、そなたがお気に入りの者たちを入り込ませる余地はないと思うが」
「せっかくだから、ぜひお兄さまに聴いていただく機会をいただきたいわ。中には期間限定でわたくしの宮に留まってもらっている異国の者もいるのよ」
陽羽がしつこく食い下がってきて、高天帝はため息をついて言う。
「わかった。それほど言うのなら、その者たちの宴での演奏を許可しよう。詳しくは宰監に問い合わせてくれるか」
「本当?」
彼女がパッと目を輝かせ、うれしそうな顔でこちらを見た。
「龍帝陛下の御前で演奏できると知ったら、楽師たちも喜ぶわ。きっと素晴らしい音を聴かせてくれるはずだから、楽しみにしていてね」
「ああ」
「では、ご政務のお邪魔をしてごめんなさい。失礼いたします」
「そうか。私は自分が誰を寵愛するかに関しては、人の意見を求めていない。そなたのところに来る官僚たちにも、そう申し伝えるがよかろう」
「あら、妃を迎えて世継ぎをお作りになるのは、龍帝の務めでしょう? あれだけたくさんの美しい采女がいるんですもの、何人でもお迎えになるといいんだわ」
「聞こえなかったか、陽羽。――口を出すなと言っているんだ」
静かだが有無を言わせない口調でそう言われた陽羽が、ふと口をつぐむ。
彼女はすぐに気を取り直し、素直に謝罪した。
「そうよね、わたくしが軽々に口を出していいことではなかったわ。申し訳ありません、お兄さま」
「…………」
「ところで今日こうして伺ったのは、お兄さまにご提案があったからなの。瑞穂の祭祀のあとの宴で、わたくしが推薦する楽師たちに演奏を披露させていただけないかしら」
「楽師?」
高天帝が問い返すと、陽羽が頷いて説明する。
「わたくし、さまざまな楽の音を聴くのが好きで、国内外から優れた楽師を集めているの。いずれも驚くような腕を持つ者ばかりだから、宴に花を添えることができると思うわ」
彼女の申し出は、高天帝にとって少々意外だった。
だが先ほどの葛城との打ち合わせでは既に流れは決まっていて、その内容を脳裏に思い浮かべつつ答える。
「宰監いわく、宴の楽の音に関しては雅楽長と話し合い、どのような楽曲にするかや楽師の人数をあらかじめ取り決めているそうだ。今の段階では、そなたがお気に入りの者たちを入り込ませる余地はないと思うが」
「せっかくだから、ぜひお兄さまに聴いていただく機会をいただきたいわ。中には期間限定でわたくしの宮に留まってもらっている異国の者もいるのよ」
陽羽がしつこく食い下がってきて、高天帝はため息をついて言う。
「わかった。それほど言うのなら、その者たちの宴での演奏を許可しよう。詳しくは宰監に問い合わせてくれるか」
「本当?」
彼女がパッと目を輝かせ、うれしそうな顔でこちらを見た。
「龍帝陛下の御前で演奏できると知ったら、楽師たちも喜ぶわ。きっと素晴らしい音を聴かせてくれるはずだから、楽しみにしていてね」
「ああ」
「では、ご政務のお邪魔をしてごめんなさい。失礼いたします」
