高天(たかあまの)(みかど)が面会を了承してから半刻後、侍女三人を伴った陽羽(ひのは)が執務室にやって来た。大輪の花のようにあでやかな彼女は、にこやかに挨拶する。

「ごきげんよう、お兄さま。ご政務のお邪魔をしてよろしくて?」
「元気そうで何よりだ、陽羽。話ならなるべく手短に頼む」
「久しぶりにお会いしたのに、そんな冷たい言い方をするなんてひどいわ。わたくし、お兄さまに散財を咎められて以来、きちんと上限を守っているでしょう? あのときはつい反発してしまったけれど、さすがに少し我儘だったと反省しているのよ。今はそれなりに節度を弁えているつもり」

とはいえ今日の陽羽は、草花の模様を染め抜いた(たん)黄色(こうしょく)の大袖に(はね)()色の纐纈(こうけつ)染めの()を穿き、圧金繍(あっきんしゅう)紕帯(そえおび)と藍白の領巾(ひれ)を合わせた華やかな装いだ。

髪には金銀箔の台座に真珠や宝石を嵌め込んだ宝髷(ほうけい)を飾り、銀の歩揺(ほよう)を何本も挿している。

だが父と母亡き今、龍帝たる高天帝の唯一の肉親なのだから、豪奢な恰好をするのも当然なのだろう。そんなふうに考える高天帝に対し、陽羽がにこやかに問いかけてくる。

「ところでお兄さま、お加減はいかがかしら。近頃は以前に比べてだいぶよいようだと噂で聞いたけれど」
「大事ない。このところ、内殿医が驚くほど回復している」
「それは喜ばしいわ。お兄さまはこの白桜国でもっとも尊きお方、お健やかであられることは民のみならず、官僚たちや華綾の采女にとっても幸いなことですものね」

彼女は「そうそう」と言って、言葉を続ける。

「最近、一人の采女を寵愛なさっていると聞いたわ。確か内蔵頭(くらのかみ)の娘だったかしら」
「…………」
「実はわたくしのところに、官僚たちが日参してきて困っているのよ。彼らの用向きは『星凛の君のお力で、ぜひ我が娘を龍帝陛下に推挙してくれないか』というものなの。どうやらお兄さまの体調が回復傾向にあるのを受けて、華綾の采女として出仕させている自分たちの娘を売り込みたくてたまらないみたい」