白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う

朱華の言葉を聞いた高天(たかあまの)(みかど)は、クスリと笑う。

嫉妬しているのは彼女自身の前世だが、記憶がないためにそれに気づかないのがおかしい。だがそれは、わざわざ伝えなくてもいいことだ。三〇〇年余りの時を経て、自分たちは再び巡り合った。

ならば別の人間として出会ったこの人生を、大切に生きるべきではないか。そう考えながら、高天帝は朱華の言葉に応える。

「私は誰よりも朱華を愛している。今の私には、そなたより大切な存在はいない」
「……(ちさ)()さま」
「朱華と出会えたことで、それまで病んでいた私に生きる気力が湧いたんだ。そなたの顔、甘い響きの声、髪の一筋まで――すべてがいとおしい」

額に口づけながらそう告げると、彼女の頬がじんわりと赤らむ。月光が差し込む部屋の中、朱華が小さな声で謝罪してきた。

「申し訳ございません。千黎さまは、そうして言葉を尽くしてくださるのに……つまらぬことを申し上げてしまって」
「構わぬ。普段は控えめで私に何も求めないそなたが、唯一見せたのが悋気(りんき)だと思うと、可愛くてたまらなくなる」
「り、悋気だなんて、そんな」

恥じ入った様子が可愛らしく、高天帝は「ははっ」と声を出して笑う。
すると彼女がこちらを見上げ、目元を恋情に染めて言った。

「――お慕いしております、千黎さま。命が尽きるまでずっと千黎さまだけを想い続けると誓いますから、どうか信じてください」
「ああ、信じる。だからそのように、今生の別れのようなことを申すな」


翌日は宮廷全体を統括する宰監(さいかん)葛城(かつらぎ)から神殿卿や雅楽長と取り決めた祭祀の内容について報告を受け、高天帝はそれを了承した。

彼が執務室を退出していき、しばらくすると窓辺に一羽の鳥が止まる。その足には小さく丸めた書簡が括りつけられており、読んだ高天帝はじっと思案した。

(だいたいの証拠は出揃った。あとはこれを、いつ使うかだな)