それを聞いた高天帝は目を瞠り、彼女の顔を食い入るように見つめる。
〝月下花影〟は、高天帝にとって思い出深い曲だ。三〇〇年余り前、霞雲帝だった頃に最愛の妃である椿花がよく舞ってくれた楽曲だった。
(ああ、……そうか)
高天帝の中で、ふいにすべてのことが腑に落ちる。
広い皇宮の敷地内で、なぜ偶然が重なって何度も朱華と顔を合わせる機会があったのか。控えめでありながらこちらの心に真っすぐに切り込んでくる彼女に驚かされ、共に過ごす時間に癒やされて、いつしか離れがたいほどに強い恋情を抱いた理由は何だったのか。
それは朱華が、椿花の生まれ変わりだからだ。容貌はまるで違うものの、記憶の中の彼女と雰囲気が重なるところが多々ある。
何より数ある楽曲の中から古典的な〝月下花影〟を見つけ出し、かつてのように目の前で舞ってくれたことがその証左で、高天帝の心に言葉にできないほどの思いがこみ上げた。
「どうなさったのですか、千黎さま……あっ!」
突然押し黙ったこちらに気づき、心配そうに問いかけてきた朱華の腕を強く引いた高天帝は、彼女の身体を強く抱きしめる。
朱華への想いを自覚したとき、「霞雲帝だった頃の記憶に囚われず、今の生を全うしよう」と考え、過去と決別したつもりだった。
しかし実はすべてが繋がっていて、彼女との出会いが必然だったのだと思うと、ひどく感慨深い気持ちになる。
高天帝は腕の中の朱華を見下ろし、ささやいた。
「そなたをいとおしいと、強く思っただけだ。長いこと生きる意味を見出せず、早く天に帰りたいと考えていたはずなのに、今は朱華と共に過ごす時間を得がたい幸せに感じる」
「それは……かつてお心を寄せていた方よりも、ですか?」
意外な問いかけに思わず眉を上げると、彼女が少しばつが悪そうな顔をする。
「以前千黎さまは、妃を娶らない理由を忘れられない女性がいるからだと説明されました。その後、『今の私は、新たに出会ったそなたを大切に思っている』とおっしゃってくださいましたが、やはり長く想い続けてきた方をすぐに忘れるのは難しいのではと思うのです。……ですから」
〝月下花影〟は、高天帝にとって思い出深い曲だ。三〇〇年余り前、霞雲帝だった頃に最愛の妃である椿花がよく舞ってくれた楽曲だった。
(ああ、……そうか)
高天帝の中で、ふいにすべてのことが腑に落ちる。
広い皇宮の敷地内で、なぜ偶然が重なって何度も朱華と顔を合わせる機会があったのか。控えめでありながらこちらの心に真っすぐに切り込んでくる彼女に驚かされ、共に過ごす時間に癒やされて、いつしか離れがたいほどに強い恋情を抱いた理由は何だったのか。
それは朱華が、椿花の生まれ変わりだからだ。容貌はまるで違うものの、記憶の中の彼女と雰囲気が重なるところが多々ある。
何より数ある楽曲の中から古典的な〝月下花影〟を見つけ出し、かつてのように目の前で舞ってくれたことがその証左で、高天帝の心に言葉にできないほどの思いがこみ上げた。
「どうなさったのですか、千黎さま……あっ!」
突然押し黙ったこちらに気づき、心配そうに問いかけてきた朱華の腕を強く引いた高天帝は、彼女の身体を強く抱きしめる。
朱華への想いを自覚したとき、「霞雲帝だった頃の記憶に囚われず、今の生を全うしよう」と考え、過去と決別したつもりだった。
しかし実はすべてが繋がっていて、彼女との出会いが必然だったのだと思うと、ひどく感慨深い気持ちになる。
高天帝は腕の中の朱華を見下ろし、ささやいた。
「そなたをいとおしいと、強く思っただけだ。長いこと生きる意味を見出せず、早く天に帰りたいと考えていたはずなのに、今は朱華と共に過ごす時間を得がたい幸せに感じる」
「それは……かつてお心を寄せていた方よりも、ですか?」
意外な問いかけに思わず眉を上げると、彼女が少しばつが悪そうな顔をする。
「以前千黎さまは、妃を娶らない理由を忘れられない女性がいるからだと説明されました。その後、『今の私は、新たに出会ったそなたを大切に思っている』とおっしゃってくださいましたが、やはり長く想い続けてきた方をすぐに忘れるのは難しいのではと思うのです。……ですから」
