目の前にある丸薬が〝龍を殺す毒〟だと聞いた朱華は、静かに青ざめる。
彼女いわく、無極霜を生成するのは非常に難しく、材料はなかなか手に入らないものばかりだが、山陰巫と呼ばれる土着の妖しい薬師に依頼して調合に成功したらしい。
「この毒の素晴らしいところは、水にすぐ溶けて無味無臭なところよ。お兄さまは普段毒見をさせてからでなければ絶対に飲食をなさらないけれど、お気に入りのあなたが給仕したものならきっと口にするでしょう。だからお茶なりお酒なりにこれを混ぜて、飲ませてちょうだい」
「……っ」
確かに高天帝は朱華を信頼していて、こちらが提供したものは何の疑いもなく口にするに違いない。
だがその光景を想像した途端、朱華は恐ろしくなった。彼が目の前で胸を押さえ、血を吐いて死ぬところなど見たくない。
何より高天帝の信頼を裏切り、彼に「信じられない」という目で見られることだけは耐えられなかった。
朱華は床に両手をつき、陽羽に懇願した。
「龍帝陛下を弑すことなど、わたくしにはできません。星凛の君や風峯さまが計画されていることは、恐ろしい大逆です。どうか考え直していただけないでしょうか、お願いいたします」
すると彼女はこちらを見下ろし、鼻を鳴らして笑った。
「あなたの土下座になんか、何の価値もないのよ。わたくしはどんな手を使っても玉座を手に入れるつもりだし、元々気が長くないの。だからその気になれるものを見せてあげるわ」
陽羽の言葉を聞いた女官が、棚の上から玻璃でできた瓶を持ってくる。
それを目の前に置かれた朱華は、まじまじと瓶を見つめた。そして中に入っているものが何かわかった瞬間、ざっと顔から血の気が引いていく。
「これは……」
――中に入っているのは、人間の手の爪だ。
無理やり引き剥がされたものらしく、わずかな肉片と血がまだらに付着している。ちょうど五枚あるそれは形状的に手の爪で、朱華はひどく動揺した。
(何なの、これ。一体誰の……まさか……っ)
こちらを見下ろした陽羽が、楽しげに言った。
「気づいた? それはあなたの母親の、左手の爪よ。今回は片方の手だけで済ませてあげたけど、いつまでも暗殺を決行しなければ右手、足の爪も順番に剥がしていくことになるわね。剥がす爪がなくなったら、指の骨を折りましょうか。それとも切断しましょうか」
「……っ」
彼女いわく、無極霜を生成するのは非常に難しく、材料はなかなか手に入らないものばかりだが、山陰巫と呼ばれる土着の妖しい薬師に依頼して調合に成功したらしい。
「この毒の素晴らしいところは、水にすぐ溶けて無味無臭なところよ。お兄さまは普段毒見をさせてからでなければ絶対に飲食をなさらないけれど、お気に入りのあなたが給仕したものならきっと口にするでしょう。だからお茶なりお酒なりにこれを混ぜて、飲ませてちょうだい」
「……っ」
確かに高天帝は朱華を信頼していて、こちらが提供したものは何の疑いもなく口にするに違いない。
だがその光景を想像した途端、朱華は恐ろしくなった。彼が目の前で胸を押さえ、血を吐いて死ぬところなど見たくない。
何より高天帝の信頼を裏切り、彼に「信じられない」という目で見られることだけは耐えられなかった。
朱華は床に両手をつき、陽羽に懇願した。
「龍帝陛下を弑すことなど、わたくしにはできません。星凛の君や風峯さまが計画されていることは、恐ろしい大逆です。どうか考え直していただけないでしょうか、お願いいたします」
すると彼女はこちらを見下ろし、鼻を鳴らして笑った。
「あなたの土下座になんか、何の価値もないのよ。わたくしはどんな手を使っても玉座を手に入れるつもりだし、元々気が長くないの。だからその気になれるものを見せてあげるわ」
陽羽の言葉を聞いた女官が、棚の上から玻璃でできた瓶を持ってくる。
それを目の前に置かれた朱華は、まじまじと瓶を見つめた。そして中に入っているものが何かわかった瞬間、ざっと顔から血の気が引いていく。
「これは……」
――中に入っているのは、人間の手の爪だ。
無理やり引き剥がされたものらしく、わずかな肉片と血がまだらに付着している。ちょうど五枚あるそれは形状的に手の爪で、朱華はひどく動揺した。
(何なの、これ。一体誰の……まさか……っ)
こちらを見下ろした陽羽が、楽しげに言った。
「気づいた? それはあなたの母親の、左手の爪よ。今回は片方の手だけで済ませてあげたけど、いつまでも暗殺を決行しなければ右手、足の爪も順番に剥がしていくことになるわね。剥がす爪がなくなったら、指の骨を折りましょうか。それとも切断しましょうか」
「……っ」
