白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う

女官たちも口々に賛同し、それを見た朱華は状況を悟る。

おそらく陽羽は風峯を始めとする者たちに煽動され、兄から帝位を簒奪しようという考えに至ったのだろう。

高天(たかあまの)(みかど)の暗殺を目論む一派は、若く政治信念のない彼女を担ぎ上げれば自分たちが国を牛耳れると思っているに違いない。

その証拠に、陽羽は婉然とした微笑みを浮かべて語った。

「わたくしが龍帝として即位した暁には、どんな贅沢も思いのままよ。国中から優れた楽師を集めて、毎日豪華な宴を開催するわ。わたくしだけが使える美しい宮殿をいくつも建てさせたり、各地から金銀玉珠をたくさん献上させるのもいいわね。官人に限らず、美男はすべてわたくしに仕えさせるのも楽しいかもしれないわ」

それを聞いた風峯が、ニコニコして応える。

「龍帝の御位に就かれれば、星凛の君に叶えられない望みはございません。難しい(まつりごと)はわたくしたちがいたしますゆえ、どうかご安心なされませ」
「ええ、本当に楽しみ」

彼女は朱華に視線を戻し、無邪気に言葉を続けた。

「わかったでしょう? そういう事情だから、わたくしのために一日も早くお兄さまを暗殺してもらわなければ困るのよ。とはいえお兄さまは曲がりなりにも龍帝、お身体が回復してきているのなら生半可な手段では殺せないかもしれないわ。だからあなたに、これをあげる」

陽羽がチラリと視線を向けると、官人の一人が心得たように布の上に載せた何かを持ってくる。
彼がそれをこちらに差し出してきて、朱華は戸惑って問いかけた。

「これは……?」

それは灰色をした小さな丸いもので、薬のようにも見える。陽羽が説明した。

「それはね、〝()(きょく)(そう)〟というの。――強力な毒物よ」
「毒……」
「皇宮の書庫には建国以来の書物が収蔵されていて、中には禁書として分類されているのもあるわ。無極霜はそのうちのひとつに記されていたもので、人間はもちろん、龍も殺す絶大な威力があるといわれているの」